第5話 特盛です!特盛です!
「おいおい、アタイの縄張りで好き勝手言ってるってのはテメェかい?」
海ヴァルキリーたちの人垣が一斉に左右に割れた。
道の奥には、左右に何人ものヴァルキリーを引きつれた長身の美女だった。
デカイ。
身長は180センチはあるだろう。
背が高いから違和感はないも、肩幅が広く全身の筋肉の堀が浮き上がり、見事なアスリート体型だった。
この海一番の、特大スイカもかくやという爆乳は頼りないビキニにあって、まるで垂れることなく綺麗なフォルムで自己主張している。
腰には青いパレオを巻いているが、ハチ切れそうなほどに大きなお尻の幅は隠しきれていない。
目鼻立ちのハッキリとした顔は、荒々しく野性味あふれる怖さがあるけれど絶世の美女と言っていいほどに美しい。
ボリュームのある黒髪は潮風になびくほどにさらさらに乾いているのに濡れているように艶っぽく光っている。
そんな、たくましさと色っぽさをどちらも損なうことなく共存させた奇跡のボディバランスを持つ美女の登場に、誰もが表情をあらためた。
「あ、船団長♪ こんちゃーっす♪」
訂正。
一名だけ平常運転だった。
「おうパーマ。聞いたぜ。タコだのナマコだのしまいにゃ畑の肥料を穫れとかいってくる奴がいるってな」
ギロリと俺を睨み降ろしながら、船団長と呼ばれた美女は眉間にシワを寄せた。
海ヴァルキリーはみんな陽キャっぽいけど、彼女やその側近はむしろ、女海賊の風情だった。
正直、割と怖い。
「おい、ハルトとか言うらしいな。救世主だかなんだか知らねぇが、人様のシノギに指図するたぁどういう了見だ?」
「待ってターレイ」
俺がビビらないよう気を強く持とうとすると、俺を守るようにアリスが前に進み出てくれた。
「彼は帝国からこの国を守るためにアタシが異世界から召喚した救世主よ。協力してあげてっ」
姫王を名乗るアリスが語気を強めて頼むも、船団長のターレイはまったく動じなかった。
「いくら姫王さんの頼みでも、アタイらは奴隷じゃないんでね。テメェらのシノギはテメェで決める。命令だからとはいそうですかと聞いていたら鼎の軽重が問われるってもんじゃあありやせんか?」
「それは……」
――もしかしてアリスとこの国って……いや、今はそんなことよりも。
反論の言葉を持たず弱ったようにうつむくアリスのために、今度は俺がアリスとターレイの間に割って入った。
「ターレイの言う通りだ。お前らは奴隷じゃないし俺は救世主であっても神様じゃない。命令で従わせようと何て思っていない」
「……」
ターレイは切れ長の瞳を細めて、俺を値踏みするように見下ろしてきた。
「だからこれは依頼で取引だ。俺が頼んだ海産物は流通しない分は国が買い取るし、お前たちで食べてもいい。イカの刺身、食べてみてくれ」
「イカか……」
半分以下にまで量が減って並びの乱れた皿の刺身を見れば、みんなが食べたのは明白だ。
ターレイは豪快に手でわしづかむと、一息に口の中に放り込んだ。
頬を膨らませてもぐもぐとよく噛んでから飲み込むと、下で厚いくちびるをなめてから、軽く舌打ちをした。
「悪くねぇ。見た目のわりにうめぇじゃねぇか」
「タコやナマコもおいしいぞ。それに酒に合う。本当は焼酎やビールがいいんだろうけど、目新しさでこれをお近づきの印にどうぞ」
俺がストレージから出した木製コップに注いだのは、醸造酒を蒸留して作った蒸留酒のブランデーだった。
この世界に、まだ蒸留酒はないらしいので、とにかくインパクトはあるはずだ。
「この香りは……」
瞳に初めて驚きの色を見せてから、ターレイはブランデーを一口。それから一気に飲み干した。
「ッ、カッァァー! キツイなおい!」
言葉は乱暴だけど、声は上機嫌だった。
醸造酒のアルコール度数はせいせい20パーセント。
一方で、水分を抜いた蒸留酒であるブランデーのアルコール度数は37パーセントから50パーセント。
彼女からすれば、かなりガツンとくる味わいだろう。
「みんなもどうぞ」
ストレージからトレイを、そしてその上に次々ブランデー入りの木製コップを取り出していく。
俺が出すの物はおいしいと学んだのだろう。
アリスとパーナを筆頭に、みんなも片っ端からコップを手にして喉に流し込んでは熱い息を吐き出している。
「なにこれすっごい!」
「喉にくるぅううう!」
「うっま! こんなおいしいお酒初めて!」
「カラダが熱いのぉ!」
「これが異世界のお酒!」
「さいっこぉ♪」
みんなからの評判も上々。
そしてターレイは、ブランデーを呑みながらイカの刺身を食べていた。
「どうだターレイ。肥料にする海藻とブランデーを交換でもいいぞ。俺からの依頼受けてくれるか?」
「むぅ……」
やや考え込むターレイに、もう一押しと俺は続けた。
「ていうか、ターレイたちが協力してくれたもっとブランデーを作れるんだ」
「どういうことだ?」
「ブランデーの材料は果実酒だ。で、このブランデーはオレンジから作った果実酒が原料なんだ。俺は、海辺に大規模なオレンジ農園を作ろうと思っている」
「あん? なんで海辺に農園を作るんだよ?」
「柑橘類は太陽の光を当てるほど甘味が増すんだ。だから一番いいのは背後に石垣を背負って南向きの海に農園を作ると太陽、海からの反射光、背後の石垣からの反射光で三倍の太陽光を当てることができるんだ」
だから和歌山ミカンは甘くておいしい。
「海辺はみかんやオレンジを作るのに適している。だからこの漁港の近くに大規模なオレンジ農園とブランデー工場を作りたい。海で作られた海のお酒だ。悪くないだろ?」
「いいだろう」
ターレイは歯を見せて快活に笑うと、俺の手を強く握りしめてきた。
「交渉成立だ! アタイらは今後、テメェの言ったもんも穫ってやるよ。元から網にはかかって捨ててたもんだしな」
「それはありがとう。ただ、効率的に取る方法があるから、タコをとるタコつぼとか、詳しくは後で説明するよ」
「タコか。そいつも酒に合うのかい?」
「合うぞ。是非試してみてくれ」
「そいつはいいな。気に入った。アタイらにできることなら何でも言ってくれ」
いくらブランデーが気に入ったとはいえ、随分と気前がいい。
いや違う。
きっとターレイは……。
「じゃあさっそく、もう一つ頼まれて欲しいんだけど、貿易の手伝いをしてくれ」
「貿易? 陸路じゃだめなのか?」
「回路のほうがよりたくさんの商品を運べるからな。船に国内の商人を乗せて、外国から大量の戦争物資を買ってきて運んでほしいんだ。お金の代わりにブランデーを使ってな」
「こいつで? そりゃこれだけのモンなら取引してくれるだろうけど。そんなに現金ねぇのか?」
「いや、まず蒸留酒の味を外国にわからせて今後、蒸留酒欲しさに外国商人が争うようにうちと取引しようとするのを狙っている」
これは、のちのち外国を味方につけるための策略でもある。
「よっしゃ任せな。じゃあまず海藻を取ってきてやるよ。行くぞテメェら!」
『しゃぁッ!』
ターレイがパレオを脱ぎ捨てながら振り返った。
――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!?
当然、ターレイもTバックなわけで、この海一番の特大ヒップがモロ出しで目の前に突き出された。
長身で腰の位置が高すぎるだけに、彼女の爆尻との視覚的距離が近くて刺激もひとしおだった。
ターレイのお尻に押し潰される妄想が膨らむ中、彼女は特盛のブラジリアンヒップを左右に振りながら海へ走って行った。
それを追いかける側近たちも同じで、とんでもなくエロい光景が展開されて、俺は性癖が歪みそうだった。
異世界ハーレムルートの妄想を振り払えたのは、アリスがジト目で睨んでくるおかげだろう。
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