回転木馬
ゆづき。
回転木馬と登場人物その1。
私こと、神門朱音は変わり者らしい。
幼稚園の夏には、「花に色を塗りましょう」という授業において、ガーベラの配色で色を塗り、先生に「向日葵の色にしようか」と苦笑いされた。確かにみんな向日葵を描いていた。
中学の頃、同級生とマジカルバナナをした時、「砂糖と言ったら塩」と言ったら、「なんで塩!?」と言われた。砂糖と塩は調味料且つ白い粉というかなり似通ったものだし、あながち間違っていないはずだと弁明しても理解は得られなかった。
そしてこの前。英語のプレゼンの時、「WordもしくはPowerPointを用いて」と言われたのでWordで作ってプレゼンしたら、先生に「あ、Wordで作ってきたんだ」と鼻で笑われた。「次からはパワポで作ってね」と最後に言われた。先生、自分で言ったこと、覚えてます?とはさすがに言わなかったが。
とまあ、こんな感じで。
世間と私の間にはズレがあるらしい。
私は世界の方がズレていると思うのだが、周りからすると逆らしい。
なので、マイルールが適応される物語を綴ることにした。この世界では私が主軸。回転木馬だとしたら、私は回る側ではない。
まぁ、そんなことを思いながら今も文章を打っている。
「そろそろ勉強しなさい」
これは私の母。回転木馬のパーツのひとつだ。
世間は強いるけれど、したくない時にしても効果はないのではないかと思う。一応断っておくと、これは逃げではない。ただの持論だ。
食事を最たる例として挙げるとわかりやすいはずだ。満腹状態若しくは熱に喘いでどうにも食事がしたくない状態の時に無理矢理詰め込むなどということはしないはずだ。それを勉強に置き換えた時に、なぜ飽和されている今、わざわざ詰め込まなければならないのだろう。
「碧依だって勉強しているのよ。比較なんてしたくないけど」
それを世間では比較と呼ぶ。そんなことは言わないでおくけれど。
因みに碧依というのも回転木馬のパーツのひとつ。多分、これはかぼちゃの馬車のような、特別席だと思う。
彼は文武両道な私の弟。小学生の頃はミニバスで優秀選手賞、中学の時は常に学年1位という名誉すぎるタイトルを取得し、町から直々に表彰された。高校もこの辺りではトップの学校に入学し、今はバスケ部と軽音部を兼部している。同じ家で育ったのによくもまぁこんな差がつくものだ。
「朱音は天才肌なんだから、しっかりやれば碧依の成績なんて余裕で上回るはずなのよ」
それは親フィルターがかかりすぎだと思う。期待というフィルター。それが見せる幻想。
そもそも天才肌であれば、今までの人生で何かしらの爪痕を残しているはずだ。それがないということは、まぁ、つまり、そういうことだ。
「あ、天才といえば、世界にはアインシュタインの脳がスライスされたものが配布されているの知ってる?日本にもあるんだって」
「今はそんな話はどうでもいいでしょ、後にしなさい」
後に、なんて器用なことは出来ない。コナン・ドイル作のシャーロック・ホームズシリーズ第1巻緋色の研究において、シャーロック・ホームズは語る。
『人間の脳は小さな屋根裏部屋のようなものだ』と。
その屋根裏部屋に本来なら必要なものだけを詰め込むべきなのだろうけれど、私はそうはいかない。
私の脳内の住人はどうならかなり強欲らしく、興味無いと思ったものは手当り次第全て詰め込んでいくのだ。手当り次第、適当な空きスペースに詰め込むので、たまたま、奇跡的に目にしたものをその瞬間に提示しなければ埋もれてしまって、もう二度と出てこない可能性すらある。
「大体、朱音は……」
くどくどと話す母。回転木馬が回り始めた。
面倒臭いなと思いつつ、相槌を打つ。面倒だなど、口が裂けても言えないからだ。口が裂けるといえば、口裂け女は韓国や中国にも出没するという都市伝説を読者のみなは知っているだろうか。
1970年代から日本に出没したという口裂け女。ただ、マスクが普及する今、彼女は職務を全う出来ているのだろうか。というか、そもそも彼女は女性なのだろうか。女という証拠はどこにあるのだろう。喉仏を目撃した人間がいるのだろうか。
「ちょっと聞いてるの?」
「はい」
実は聞いていたかったなど言えないので頷いておく。
「はぁ……もういいわ、寝なさい」
よし、眠れる。
私の粘り勝ちだ。勝つも何も途中から口裂け女の話題を私の頭の中の住人はその辺にある箱にでも腰掛けて茶を飲みながら語っていたけれど。
「おやすみなさい」
そう言って私は自分の部屋に向かった。
回転木馬 ゆづき。 @fuka_yudu
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