文化祭が決まるまで
シバゼミ
最凶レベル3 & MAX
あぁぁ あぁぁ (サトシは机にふせって、未来を予測していた。)
中学生最後の文化祭だというのに、ため息しか出てこない。なぜって、あれから初めての文化祭だ。当然、どんなものか分からない中、『有終の美』やら『三年間の集大成』やら無責任にはやし立てる先生にはむかつくんだよ。受験よりプレッシャーだ。
で、そんな役どころ。スマホを持ってない者から標的になる。
「男子の実行委員にはサトシ君がいいと思います。」
賛成! 賛成! 賛成!
はぁ、やっぱりな。おそらく持ってる仲間で決定済みだ。だから、スマホを取り上げるなって、お父さん! 学校ではマジで死活問題なんだよ。
どうせ、あれだろう。あいつは
「女子の実行委員には加奈さんがいいと思います。」
賛成! 賛成! 賛成!(サトシの鼻がふくらむ。)
えーと、そうそう。彼女は
だから、ついたあだ名がマネキン。それでも、言い寄った男子は数知れず。ただ、そんなやつらはなぜか転校していった。てか、行方不明になったってウワサもある。
だから、彼女は浮いていた。
「それではこの二人でいいでしょうか?」
どうでもいい、かわいた拍手がパラパラと。先生も安らかな表情をしていた。
夕日が沈む放課後。僕は緊張しながら、加奈のとなりへ。とりあえず出し物についての相談だ。けど、彼女はまったくの無反応。
弱ったなぁ。すると、手首のミサンガに目がとまる。
「その右手、いつもしてた? なんか12万円って、模様あるけど。」
いや、ただのタグ。それにしても、ずいぶん高値だ。
「別に、前からしてたけど。お母さんがくれたから、あまり意味ないと思う。」
やっと、会話らしい会話。ちょっと、うれしい。
「へ~~~。お母さんと仲が良いんだ。」
「別に。家の仕事、手伝ってるだけ。」
そ、そなんだね。僕と同じ、推薦で受かっていたのも家の事情かもしれない。
「で、どんな仕事?」
「洋食屋のレストラン。アウトレットに入っているんだけど。今日、食べに来る?」
「・・・今日?」
「ええ。」
これはいわゆるお誘いか? しかし、こういうときに限って予定がある。
「あのさ。僕はこの後、クラブがあって。その後でもいいかな?」
「別にいいけど。」
「ありがとう! それまで文化祭の出し物、考えとくよ。アッ、髪の毛にゴミ!」
とっさについたウソ。加奈はあまりにきれいな黒髪だった。もちろん、一本一本ゴミなどついていない。それを、優しくさわってやったよ。いい香りだ。透きとおる。サラサラと音が聞こえてきそうだ。
僕は興奮をかくしつつ、彼女と別れた。
パチンッ!(放課後過ぎの将棋クラブ。歩で金をとる。)
かれこれ長い付き合いだ。幼なじみのアタルと対局。こんな予定。
「サトシ、今日は強いな。ずっと、メソメソしてたのに。」
ナメた口をきいてくれる。しかし、腕前は僕より上。そして、これからお金を借りる予定だ。怒ることもできなかった。
「アタル今、いくら持ってる? ちょっと女子と飯なんだけど。」
小さくたずねる。すると、顔を寄せてくるアタル。
「おまえ、まだ家にスマホあるだろ? それ、5万円でどうだ?
実はうちも親に取り上げられちゃってよ。おまけに破壊だ。まいっちゃうよな。だから、全部貸しとくわ。三日以内に返せなかったら、約束守れよ。」
苦い顔でうなずく。確かに僕は親の隠したスマホの場所を知っている。ちょっと、充電したら使えるだろう。ただ、やっぱり気が引けるなぁ。
しかし、これで準備完了。学校を出るときにはすっかり夜になっていた。
しばらくして足を止める。やっぱりここか。服やら本やら、レストランが入る複合施設。ただ、やな感じだ。終わりの音楽も流れていた。
それにしても遅くなった。まったくの嫌がらせだよ。アタルは僕が飯だって言っているのに、わざと対局を伸ばしてくれた。
それでも、加奈が僕のために待ってくれている。もしやエプロン姿のコスチューム? 想像するだけでも心がおどった。
しかし、店内も暗い。声をかけても無反応。やっぱり遅すぎたか。しょんぼりとして毛が抜け落ちる。財布には5万円だけが残ってしまった。
次の日。全員が個別のタブレットを見ながら英語の授業だ。ネイティブの発音を聞くとかのスピーチ動画。やけに雑音だけ。僕の耳には入ってこない。チラチラと彼女の横顔を見る。どうしても、謝る機会を失っていた。
やっと、放課後。加奈へ駆けよる。
「ホント、ごめん! 昨日はクラブが遅くなってさ。店には顔を出したんだよ!」
彼女はすました顔で前を向く。
「謝るって、誠意はないの?」
いやはや、キツい返しだ。美人は美人でも、女王様になりすぎる。とはいえ、そんな悪いことをした? もう自暴自棄。とっさにとった行動。
僕は彼女のくちびるを奪ったのだ。
これがファーストキス・・・。
甘酸っぱいとかじゃないんだな。ソーダ水みたいでシュワシュワと。残念ながら、舌は入れられなかった。
「これが僕の想いだよ・・・。」
黙ってる。すごい長い時間だ。加奈は目を丸くしたまま動かない。それでも抵抗はしなかった。
窓から差し込む夕日。彼女のほほが赤く染められて。口と口とが思い出に残る。
パチンッ!(放課後過ぎの将棋クラブ。金で歩をとる。)
僕は劣勢。わざと劣勢。なぜなら、そのわけを言いたいからだ。
加奈を考えると手につかないって、どれだけ口に出したいか。そんなときに限って、アタルが皮肉。
「オイオイッ! 今日はまた、弱くなったぞ。もしかして俺を勝たせようとしているな?」
そうだ、思い出した! 僕はじっとにらみつけて。
「昨日はさ、誰かのおかげで遅れたと思ってる?」
逆に、アタルはふくれた顔だ。
「あのさあ。金を貸した相手にさ。そんな口、たたけるの? あと、二日だよ。使ってないなら、返してもらってもいいんだぜ。」
ヘンッ、返してやるさ。売り言葉に買い言葉。僕は重い腰を上げる。しかし、ふとよぎった天国モード。
そうだよ。万が一だよ、万一。これから、加奈と急接近。二人でラブホなんてありえるかもだ。
僕は何度もふくらんだ。
「と、とりあえずね。まだ、借りといていいかな?」
再び、下手。アタルは白々しいと、上目づかいだ。
「ふ~~~ん。まあ、いいよ。でも、スマホの件な。どうせ、いらないんだろ?
サトシはアラーム音がトラウマだって。画面も見たくないって言ってたじゃん。」
目覚まし機能。朝からホント、うるさいわ。って、思ってたころがなつかしい。
「最近はもう、朝飛び起きだわ! そんなにスマホが欲しいなら、親にねだれよ!」
なんだ、このイライラ感。たかだか紙くず5万円で言いすぎた。おかげで、アタルも黙ってしまう。
ホント、つかれる一日だった。
さらに次の日。先生が出し物を決めてくれと言ってきた。ちょうどその日は朝から黒い雨が降り、体育の授業は中止だと。教室も厚手のカーテンとガムテープでしめ切ることにした。
ところで学校の七不思議って、何? 体育の授業がなぜか英語に早変わりすること。前回のタブレット動画の続きになる。だが、とんでもない映像がそこで流れた。
【ウソッ! これ、サトシ君が強引にキスしてる!】
女子の悲鳴。僕も思わず二度見する。
こ、これは! 僕が加奈とぉぉぉうううう、あのときの切り抜きだ!!!
ヤバいヤバいヤバい!!!!! いつ撮られた?どこでどうして?どうやって? その間にも悲鳴のビッグウェーブ。
「キモッ! 最低! クズ野郎!」
この
ブクブクブク。おびただしい大量の汗。ひどい胃痛。首筋もグワングワンして気持ち悪い。おかげで一言も言い返せない。
ただ、それでもだ。加奈はあのとき抵抗しなかった。少しはかばってくれるよな?
そっと、のぞき見。彼女は無言。いや、うつろな目で肩を落とす。ああ、これで決定だ。僕がすべて悪者扱い。
もうだめ。明日からはきっとこう呼ばれる。バイキン男、犯罪者、ストーカーだって。背中に冷たい目線。そして、下を向いている男子たち。ラインでどんどん送っているのだろう。サトシという指名手配犯に気をつけろって。
それにしてもまさか僕の親まで伝えるつもりか?
それだけはやめてくれ!!!!!
静まることがない送信音。しかし、先生がようやく静止を求める。
「止めなさい! まだ、本当かどうかも分からないことです。とりあえず、サトシ君。放課後、職員室に来てもらいましょう。」
胸をなでおろす。ほんの少しだけ助かった。それでもこの後、地獄行き。
分かっていたよ。まるで汚物扱いさ。近くにきては自分の鼻をつまみ、異臭に見立てる。加奈のまわりには女子のバリケードまでできていた。
さらには席を立った後、机の上には油性ペンで『ヘンタイ』の文字がくっきりと。知らない間に、引き出しからエロ本やらテッシュやらつめられていた。
マジで凹む。
アハハハハッ! 犯罪者のくせに泣いてるよ。この、心ない笑いも凶悪だった。
いや、泣いてないけど! 大声でさけびたかった。
そして、放課後。重い足取りで職員室へ。ただ、先生からの驚きの一言に絶望する。
「君、あと半年ぐらい休んでいいよ。それでも、卒業式にはちゃんと顔を出してね。」
足を組みながら、無愛想にクビ宣告。先生の、明らかに僕を切り捨てる言葉であった。
それでも僕は必死だ。頭を深く下げて、願い出る。
「誤解です! あれはウソなんです! 信じてください!!!」
うなずく先生。表面上は理解者を演じていた。
ただ、彼の指先。もう、次の仕事に取りかかろうとしていた。
その後、やさしい声で教育者づら。
「サトシ君な。問題は本当かどうかじゃない。日ごろの行い。火のないところにケムリは立たない。そうは思わないか?」
僕のあらい鼻息。何その納得しろよ、みたいな! 問題は本当かどうかだろ!
「だって先生、言ったじゃありませんか! 偽物動画って! 第一、なんで授業中に流れるんですか? おかしいでしょ!」
興奮のあまり響き渡る。それが墓穴だと後から気づいた。
先生の口調。まるで機械音のように冷たかった。
「なぜ、そんなわめくんだい? 事実でなければ、順序立てて説明すればいいだけのことじゃないか。違うか?」
僕はかなしばる。おかげで、小声がやっとであった。
「・・・でも、信じてください。」
結果発表。その後、先生は振り返らない。それどころか、かりそめな希望まで語り出したのだ。
「いいかな、サトシ君。君は休んでいる間、いくらでも成長できる。そうだ、こんなときこそチャンスへ変えるんだ。」
あぁぁ あぁぁ
だめだ。こいつ、ハナから守る側じゃない。
「しかしだね。君は文化祭の実行委員。だから、出し物だけは決めてもらえないか?」
僕は悩みそがとろけそうだった。こいつが一番、最低だ。流れ仕事の中で、不良品と見られるものは早めにポイ捨て。大人の仕事だ。「考え中です」とつぶやくのが、やっとであった。
ここにきて、また休学か。やるせない。しかし、そうだな。アタルにだけは別れを言っておこう。
背中を丸めて、僕はクラブへと向かった。
パチンッ!(放課後過ぎの将棋クラブ。歩で金をとる。)
そう、アタルはまだ僕のスマホを持っていない。渡していない。だから、まだ何も知らないと思う。相変わらず、のんきな顔だ。
「また、今日は激弱じゃん。もしかして、何かあったか?」
大アリだ。でも、正直に言えるはずがない。とりあえず無難な会話で切り返す。
「おまえのクラス。文化祭の出し物決まった?」
「ああ。どこも一緒だろ?」
「なあ、アタル。彼女はいるか?」
少し時間。
「・・・いたよ。それがどうした?」
なるほどね。薄々は知っていたよ。おまえは僕と違って、カッコいいから。
「そうか。そんでさ。好きな人に裏切られる気持ちってさ。バカにされる気持ちってさ。分かるかな?」
僕はオブラートに包んだつもり。それにしてもぶり返す。あれはワナだったとか? きっと、彼女の髪の毛をさわったあたりから仕組まれた?
笑い声を殺しながら盗撮していたかもしれない。だとしたら、怒髪だろ!
ただ、僕はぐっとこらえて。
その間にも、アタルは何かつぶやいていた。
「俺の彼女はさ。バイタ。もちろんそんな名前じゃない。売春のことさ。
いきなり流れたんだよ、学校で。5万でその体を売ったって。そんな胸くそなウワサ。当然、デマなんだけど俺は絶対、それを流したやつを許さねぇ。彼女のかたきをとってやる。」
後半、よく聞こえなかったな。しかし、そうだ! 思い出す。
「ああ、5万ね。返すわ。ありがとう。」
僕は財布を開いた。ため息をつきながらお札を数える。
アタルは何かを察して、なぐさめモードだ。
「・・・やっぱりどうしたよ? あと、一日ぐらいは待ってやるぞ。」
「問題ないよ、ぜんぜん。」
「よく知らないけどさ。そんな落ち込むなよ。
サトシはさ。内気なんだよ。別にさ、おまえは顔も悪くないし積極的に出れば・・・。」
思わず、大声。
「てめぇ!!! それがこの結果だ!!!」
くそくそくそくそぉおおおおおおおおおお‘‘‘‘‘‘
僕は立ち上がる。血流のマグマが、どんどん頭にのぼってくる。勢いでイスがひっくり返った。
僕は鬼の
後ろでアタルの声が響く。
「ちょっと待て! どうして、そんな怒ってんだ?」
それは不思議がるよな。おまえの小さなフォロー、ありがとな。でも、やっぱり他人は他人だよ。
ホラッ、そこに見えるのは僕の机の上に雑草だ。さすがに花びんはなかったか? 誰も一生、分からない。嫌がらせを受けた側のつらさがよぉ!
いや、されてみて、やっと分かった。
僕は机を蹴飛ばし一直線。座ったままの加奈を捕らえる。
ヘヘッ、親に感謝しろよ。ちょうどミサンガが指にかかった。そして、きれいな髪をわしづかみ。そうさ、あのときの心おどる感触がよみがえる。逆に力が入ったよ。
薄ら笑み。最高の料理に舌づつみだ!
ガタンッと固い床へ押し倒し、けもののように馬乗りになる。
あれくるうヨダレ。そして、渇望の両手が胸元へ。ただ、彼女の髪がからまるぞ。ああ、もうめんどうだ! ブチブチと根元から引き抜いた。
その音が骨へ伝わり、わずかに残る罪悪感。この先は犯罪者。でも、もう遅い! ずっと、あこがれの制服。そこで力いっぱい破り切る。
「マジでいい。下着ないって。」
突然、あらわになった白い完璧な胸。僕はその谷間でほおずりをした。
「このスベスベの肌。君はキセキだ。キセキだ。キセキだ。キセキだ。」
僕は声を上げて号泣した。もう、自分の顔のウミも、かさぶたも、ごっちゃごちゃになっていた。
将来の夢? 将棋の名人だったかな。それなりに賞状ももらったよ。それが今では手の込んだ演出家。ただ、この先のことは忘れた。オチも忘れた。もう、グダグダだ。どうしようもない。
だから、僕は最初に戻って考え直す。独りで考えることにしよう。
なぜ、あのとき逃げたか? 言い渡された休学中。自宅には万が一に備えて簡易シェルターがあったんだ。僕はよくそこで将棋を指したり、ゲームをしたりしてたんだ。そこから記憶がボケている。
その日も夢中になっていた。知らない間に、大きな月。でも、外の景色なんて見るはずもないが、なんとなく気づいたんだ。鳥が消える。虫が消える。一瞬の違和感。電気が落ちた。そこで突然のアラーム音。
静かな夜を切り裂く。それでもまだ、余裕があった。
きた
きた
きた================== バカだ、急いでハッチを閉める。ありえないほどの轟音と激震。一瞬で、紅蓮が世界を飲み込んだ。
それからだ。この冷蔵庫ぐらいのスペースで、必死にうごめく。数え切れない衝撃がドシドシと天上天下、上下左右になぐりかかる。そんな中、何があって何がないか夢中で探した。
こきざみな呼吸。体の砂時計がグワングワンと回転中だ。ときにはこぶをつくり、くちびるをかみ、傷をつくりながらも手探った。
水がある。スマホがある。あとは将棋の駒ぐらいか。でも、命はあるのか?
何分? 何時間? もう、どれぐらい過ぎたか分からない。振動は止み、回転も止まった。しばらくして消え入りそうな音。
(トントン)なんだろう? 自分の心音か?
(トントン)それはずっと、入り口をとびらをたたく音だった。
同時に、スマホが震えている。
画面は送り主====『お父さん』、『お母さん』!
また着信、着信、着信。ちょうど、外にいるの? 手前にいるの? でも、でも、僕は出ない。だって、このスペースには一人分なんだよ!
お父さんは言っていた。
「やっぱり、サトシは悪くない。」
お母さんも言っていた。
「やっぱり、担任がおかしいんじゃない?」
二人は全力で僕をかばってくれていた。でも、僕は今、全力で無視を続ける。
いまだ、あわただしいスマホ。入れてくれ、お願いだ! 入れてくれ、お願いだ!
画面から悲痛なヘルプが浮いてくる気がした。そんな地獄が聞こえてくるんだ。でも、救急箱だってカラ。日ごろ、コットンは鼻紙に。消毒液はニキビに。非常食だっておやつがわりに食べていた。バカだった。
それでもだ。全部、投げ出して開けるとしよう。ところがこの状況を知って、入れ替われなんて言われるかもしれない。怒られるかもしれない。
助かりたいんだ。それからはぎゅうぎゅうにハッチを閉めた。
(トントン)でも、強くたたかないんだ。
(トントン)なんで、いつまで優しいだよ!
自然と、涙があふれる。どうしよう。スマホのメッセージに愛であふれていたら、どうしよう。
それでも、無理だ。さっきまで出なかった。今も出なかった。それが次、出れるかよ!
電源をぎゅっと押し込んだ。画面もプツンと消えてしまった。そして、たたく音も聞こえなくなった。
幻聴だったの? 頭をかかえて、しゃがみこむ。その手には静かになったスマホだけ。じっとこちらを見てる気がした。
うるさい、うるさいぞ。いつしか指紋だらけ。無性に、カリカリと顔をかく。そして、不意にわきあがってくる深い後悔。
そうだ。もし電源を入れたら、謝れるかもしれない。やり直せるかもしれない。でも、外のことはさあ・・・。
後悔は底なし沼にしずめた。だって、シェルターを開けた瞬間、灼熱が流れ込んでくるかもしれない。ゾンビのような両親が僕の頭をかじりついてくるかもしれない。
何万回と、汚いつばを飲み込んだ。
時計が二周、三周したのだろうか。目には深いくま。涙の川もかれていた。勇気をふりしぼってハッチを開ける。
ま、ま、ま さか...................................................................................
声が出ない。様変わりしていた。血ヘドの海。そこには今にも落ちてきそうな緑の雲に黒い太陽。地平線まで続く、
それ以降も記憶がボケる。今、目の前には掘り出したマネキンの一体とその胸。そこに、僕の鼻水が垂れていた。
ごめん。謝るよ、アタル。
ごめん。謝るよ、加奈。
そして、毛嫌いしていた先生と日和見な仲間たち。みんな、ごめん。本当に、僕が悪かった。
だからさ、これからはずっといじめられる側でいい。くつを脱いで、裸踊りだってする。動画でもなんでも撮らせてあげる。
だから、一人でもいい。目の前で、生身でいて くれ。。。たのむ。。。たのむ。。。
後悔も言い訳も、誰も聞いてくれない。努力も絶望も、誰も知らない。スマホはホしかってくれない。画面もタブレットも、なぐさめてくれない。
独り。
出口のない独り。このままだと、僕がこわれる。。。
それから、お父さんお母さん。次は開けるよ。絶対、開ける。この身が裂かれようと、砕けようと、絶対に開ける! だからもう一度、電源が入ってよ!!!
僕の目玉がぐちゃっと落ちる。ああ、そうだ。ラストのフィナーレ文化祭。明日、探しにいこう。掘り出したら見つかるかもしれない。ろう人形館。
トビラの先へいったお父さん、お母さん。 熱でとけたみんな。 影を奪われたみんな。 もっと生きたいと願ったみんな。
そのすべてから僕は逃げて、逃げられなかった。今はもう、喜びも悲しみも分かち合えない。伝えられない。
独りきり。風前の、この最後であっても握り返す言葉、温かい手、包み込む胸、すべてのぬくもりが真っ黒な雨に消えてしまった。
今はもう、マネキンが恋人。
あと、一日ある。明日は東京タワーがあったところへ さ が シにいこう。
文化祭が決まるまで シバゼミ @shibazemi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます