あなたが見える

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今回のブラックユーモア焙煎度

フレッシュ感:★★★

フルーティーさ:★★

スパイシーさ:★★★

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ふざけて屋上のフェンスによじ登った俺は、あっけなく落下して死んでしまった。


大事な高校生活に幕を閉じた同時に、幽霊生活の幕が開いた。



浮いたり、通り抜けたりして、この霊体の扱いもだんだんと慣れてきた。

この体をどう活かそうかと考えた挙句、ある考えに至った。



同じクラスの気になる女子、原瞳(はら ひとみ)。

好きと言えなかった未練なのか、それとも思春期の性欲に駆り立てられたのか。どちらかは分からないが、彼女の家へと向かう。

家はたまたま、帰るところを見て知っていた。



家の前に着いた俺はインターホンを鳴らす事なく、ドアをすり抜ける。

中はうす暗く。玄関の光はついていない。

廊下の左側に上へと続く階段があり、そこから光が漏れている。

俺は浮遊し二階へと向かう。ドアの前まで来て顔を突き出して中を覗き込んだ。


いた。

ベッドの上であぐらをかき、うつむいたまま音楽を聴いてる。

俺がゆっくりと近付くと、パッと顔をあげ


「きゃっ!」


と甲高い声を上げる。それに驚き俺も「うわっ!」と声が漏れた。


「えっ、なに!? なに!?」


彼女とばっちり目が合う。


「えっ! いや、えっ! 俺が見える?」


俺は自分を指さす。


「見える」

「マジ! もしかして霊感とかある?」

「ある」

「あるのか!」


嘘だろ。と俺が慌てふためいてると「あなただれ? どっかで会ったけ?」と聞いてきた。


「えっ? 俺だよ。覚えてない? 同じクラスの矢口陽一(やぐち よういち)。ほら昨日死んだ」

「昨日……死んだ人。あーあ、屋上のフェンスから落ちたとかいう、あれ?」

「そうそう。友達とふざけてて、屋上のフェンスによじ登ったら、落ちて死んだ」

「へー。そうなんだ」


興味なさそうな感じで彼女は相づちを打つ。


クラスでは割と目立っていた方だと思ったのに。彼女が俺を知らなかった事にがっかりした。

そういえば、バカな事をしている時、彼女はいつも興味なさそうに。窓の方を見ていたな。

今、思えば目立ちたかったのは、彼女に見てほしいという一心だったのかも。



「ねえ、それより、なんで私の家にきたの? なにか恨みがあるとか」


俺はそう聞かれたので、どう答えようか迷ったが


「恨みはないけど、気があった」


と正直に答えた。


「え! なにそれ。私の事が好きだったってこと?」

ベッドから勢いよく立ち上がる。

俺が言葉に臆していると「なんで私?」と少し口角を上げて、聞いてきた。


「なんでって。うーん。顔がタイプだったかな」


そう言うと「あっ、そう。ありがとう。正直に答えてくれて」


と彼女は照れ臭そうに、はにかんだ。


「でも、私、生きている人に興味がなくて。死んでるあなたに、そんな事、言ってもって感じよね」


「生きている人に興味がないって、死体とかに興味があるとか?」


俺の言葉を受けて、彼女は眉間にしわを寄せる。

失言だったかと思い「ごめん。怒った」と謝る。


彼女は手をハタハタと振り、違うと言い


「うーん。何ていうかな。私、変わっているのよ。霊とか見えるし。こんな自分を受け入れてもらえないと思って、みんなから距離をとってたし」


「そうだったのか」


彼女の意外な一面を知った。それが理由で、ずっと退屈そうに窓の外を見ていたのか。


いつも目で追っていたが、彼女の事を見ていなかったのかも。

その事を俺は幽霊になってから知った。

そして幽霊になったおかげで彼女が俺を見てくれた。



「引くでしょ。こんなあたし」


「そんなことないよ。話しを聞いて、分からないことが分かって、きみのことが少し見えた気がした」


「見えた? 私の一面が見えたってこと?」


俺は頷くと「よかったら聞かせてよ。霊が見えるようになった話し。いつから見えるの?」彼女の事が知りたくてきいた。


「いつから……。そうね、あれは」


思い出しながら話す彼女を俺はジッと見つめた。











「子供の頃、海で溺れて臨死体験したの。そこから霊がうっすらと見えるようになって。その後、死後の世界に興味が出てきたの。人が死ぬ動画とか好きで貪るように見ちゃって。そうする内に、霊もはっきりと見えるようになってきて」


彼女は笑顔で意気揚々と尚も語る。


「それで人が死ぬ動画だけでは満足できなくなって、実際にその瞬間を見たいと思ったの。電車を待っている間も、誰かが飛び込んでくれないかなと、心待ちにしていたわ。でも残念。その瞬間は訪れなかった。だから私はあることをしたの。知らなかったでしょ?」


続けざまに喋る。


「あなたが落ちた屋上のフェンス。あれ登った時、ネジが緩んでいた事、知らなかった? 私が窓の外をずっと見ていたのは、あの場所がちょうどその真下なの知らなかった? 陽一君、実は私あなたの事を知っていたわ。そして、最後のその瞬間も見ていたの。あなたが落ちているその瞬間を窓から」


彼女はそう言い終わると、俺がどういう反応をするか、楽しそうにジッと見つめた。

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5分で読めるブラックユーモア 夜寝乃もぬけ @yoino_monuke

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