鳩の採掘
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今回のブラックユーモア焙煎度
苦味:★★
野性味:★★★
スパイシーさ:★★
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ひとけがない山道を入ったところで車を停める。
車から降り、誰も踏み入っていないであろう獣道を行く。
一歩踏み出す毎に、枯葉が小気味良く割れる。
その感触が足元から伝わり耳に響く。
しばらく、歩き、俺は辺りを見渡す。
「ここでいいかな」
場所を決めると、荷物を一式地面に下ろした。
作業を進めていると、カサカサと音が鳴り、俺はそこに目を向ける。
木々の奥からカサカサと一定のリズムが刻まれている。
ゆっくりと近づいてみると、そこには何羽かの鳩がいた。
上半身を前に倒して、首の筋肉だけで左右に揺らし、クチバシでカサカサと落ち葉をかき分けている。
何を探しているのか。何が見つかるのか。一心不乱に掘り進める鳩達。
カサカサ、カサカサとリズミカルに鳴る音が癖になり、ずっと見てられる。
カサカサ、カサカサ
カサカサ、カサカサ
俺はしばらく、ぼーっと眺めていて、ある記憶が蘇ってきた。
小学生の頃だ。近所に小さなお寺があり、その時も枯葉が積もっていて鳩達がそれを掘っていた。
そこへ小汚い小太りのおっさんが現れて
「この鳩が! やめろ。去ね」と手をバタバタと仰ぎ鳩を追い払う。
鳩は豆鉄砲を食らった様に、飛び去っていった。
「去ね。去ね。去ね」
鳩に親でも殺されたかの様に怒り、次から次へと追い払うおっさん。
なぜ、こんなにも怒り狂って鳩を追い払うのか。
その場にいた俺と友達は疑問が浮かび、それぞれの考察にジョークを交えて話し合う。
・徳川の埋蔵金を探していて、鳩に先をこされるのを危惧している
・カサカサ、カサカサという音が不快で蕁麻疹が出る体質
・実は学会を追放された博識の異端児で、枯れ葉の山には沢山の微生物が住んでいる事を知っており、鳩が掘り起こすたんびに微生物が舞い、人体に有害なので止めている
などと言いながら盛り上がる。
後で知ったが、近所では有名な変なおっさんで、いつも枯葉をかき分けている鳩を追い払っているらしい。
その変なおっさんが俺らの注目の的になったが、ある日を境目にぱたりと見なくなった。
結局、あのおっさんがなぜ鳩を追い払っていたのかは分からずじまい。
でも、今、その答えがわかった気がした。
あのおっさんは、埋めたものを掘り返されたくなかったんじゃないか?
掘り返されてはいけないもの、それをおっさんは埋めていてた。
鳩が枯葉をかき分ける姿が、掘り返されるイメージを彷彿してしまうので追い払っていた。
という答えはどうだろうか。
つまり、今の俺の状況と同じという事だ。
俺はスコップで掘った穴に殺した女を埋める。
丁寧に土を被せて、上に枯葉をトッピングのように振りかけカモフラージュした。
今後、俺もあのおっさんみたいに鳩を追い払うようになるのだろうか。
そんな事を考える。
鳩が掘り起こすカサカサ、カサカサというミュージックを名残惜しく感じながら、俺はその場を後にした。
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