うたかたの「CD」――変遷または普遍

現代の十代の、CDに対する扱いが自然に表れている点を面白く思いました。普段からCDの購入や再生に親しんでいる者にとっては、「毎日その人の歌を聴き続けることになる。」というくだりで、その歌手のCDを一枚二枚買っていると思い込んでしまうのです。少くとも私はそう誤解するところでした。世代の差を意識して描いたかはともかく、動画配信アプリの利用で当然「生活の一部」だと言えるところに、同時代性があります。これだけでも、2023年だからこそ書ける小説だと言えます。それでもCDショップでの「僕」やカズヤくんが、求めていたCDを探し当てて買うまでの描写には、昔日と変らない光景があります。「浮き足立つ気分」「茫然自失」という言葉は、今もCDショップに立ち寄る人達の気持と共通するのではないでしょうか。CDを買う習慣がなくなりつつあっても、普遍的な心情というものはあるのだと信じることができます。結局そのCDは放置され、夭折した歌手の音楽を聴き続けたわけでもないことが察せられる点も、少年の時の流れとして自然だと感じます。やはりモノを残しておくことは、対象を思い出す大いなる扶けになります。もし「僕」が動画配信アプリで歌手の音楽に満足していたら、この小説のように、その歌手や過去を思い起すことは難しかったかも知れませんから。

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Melody of Memory