異変から浮び上がるもの

語り手=理沙の態度が良いです。奇妙な出来事に対して、どこか無関心で、興味がまったくない訳でもなく、ちょっと面白そうに感じながらも、最後には突き放します。
だからこそ、祭の準備中に眺めた陽音に「見蕩れ」、巫女姿の陽音を綺麗だと褒め、陽音と下校しようという時に遥香と一蕾が同行すると分って「これ見よがしにうんざりした風でため息を吐いた」主人公の態度が色濃く浮びあがって見えます。
陽音もまた、祭の前日に「口上の後、理沙に簪を渡すから近くにいてね」と理沙に約束を交します。当日陽音は、倒れる理沙を「きつく抱きしめ」て「まさか失神するとは想像だにしていなかった」と言うのですが、失神するほどではない何かを期待していたようにも読めます。直前に簪を理沙に投げ渡した時に、「よろしくね」と見て取れる口の動きをしたことが後にまで響いているようです。
また陽音は2章で、竹刀を担いで廊下を駆け抜けている通り、恐らく剣道部に属しているようです。それでも陽音は遥香と一蕾と交流があり、四人で和音の合わせをする際も理沙と同じ音を探して歌うことができるのですから、何か語られていない物語があるように見えます。どうも理沙と陽音の間では黙契があるのではないでしょうか。
問題は二人の関係と水が減る出来事とが、いかに照応しているのかということですが、私にはこれ以上読み取れません。読み取る必要もないのかもしれません。理沙にとっては夢や異変よりも、綺麗な陽音の方が重要なのではないでしょうか。話は時に大きく動くのに、押しつけがましくないところが、この小説の美点だと思います。