エピローグ

K氏とエージェント酒頭はN市のとある墓地にいた。


「万田家」と書かれた墓前で、手を合わせ、線香をあげた。


そして、墓の汚れをふき取り、花を生けた。


「なあ、先生…74年の事故の時、三治くんは、自分が死ぬって分からなかったのかな」と酒頭。


「いや、分かっていたと思う」K氏は答える。「三治くんは、そのことかは分からんが…何度見てもだめだったと言っていた。」


「変えられない未来もあるってことか」酒頭が悲しそうな顔で言った。


「そう。だから、死んだ人間みんなが三治くんに会っているわけじゃない」K氏が言った。「だから三治くんも助けられる人間には、一生懸命声をかけているのかもしれないな」


「死んでも・・・能力を使って人を喜ばせたいんだな」酒頭が言った。「俺は、この仕事初めて人間不信になったし、オカルトも神様も大っ嫌いだけどさ。こういう異体を見ると、人間も捨てたもんじゃねえなって思うんだ」


「そうだな」K氏は静かに頷いた。

そして続けざまに話し始めた。

「さて、次は、連続事故の原因を調べないとね。1970年代からI縦貫道に関する事件事故の資料をまとめてみたんだ」

K氏はそういうと、カバンからスクラップブックやノートを取りだした。


「冗談じゃない!」酒頭はギョッとした。「しばらく勘弁だよ先生。ていうか、その連続事故も怪異が原因だっていうのかい」


「その可能性もある」とK氏。


「OK先生」酒頭はコートのボタンを締め、踵を返した。「本局から何か言って来たら、相談に来るよ。でも今は勘弁だ。先生も新刊があるだろ?」


「もう書き上げたよ」K氏が言う。


「分かった。とにかくしばらく勘弁だ先生。Mパーキングで過ごした分、俺は自分のアパートで飲んだくれる。Mパーキングで売ってた自販機のジュースもクソくらえだ。帰ってハイボールでも飲むよ」酒頭はそれだけ捲し立てると、足早に去っていった。


「エージェント酒頭!」K氏が叫んだ。


「新刊売れるの祈ってるよ!ロボットと宇宙人の恋物語!」酒頭はおどけたように手を振って、墓地から去っていった。


「半魚人と河童だって」K氏は苦笑して去り行く酒頭を見送った。



墓地に風が吹いた。

寒波到来前の柔らかな風だった。

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Mパーキングの幽霊 差掛篤 @sasikake

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