第2話 後編

「……はぁはぁ。疲れた」


 ──魔法使いのプライドなどもう俺にはなかった。だって迷いもなくジャガイモぶん投げたからな俺。

 ゴブリンはどう思ったのだろうか。


「うわ、こいつなんか投げてきた爆弾!?

 え……ジャガイモや。」


 とでも思ったのだろうか。

 というかジャガイモ知ってるのかゴブリンって……。自宅に帰り、あれから使える呪文を試したが、全てジャガイモが出てくるだけの呪文に変わってしまっていた。もうただのジャガイモ製造機である。まずいまずいまずいこれからどうすんだ俺!現在時刻は11時!勇者あと1時間でくるぞ!?


「……その前に、飯食おう。腹が減っては戦はできぬだ。なんかあったかなぁ」


 人間、度が過ぎた失敗と対峙した時、冷静になるものなんだな。

冷蔵庫を漁ると結構食材があった。人参。玉ねぎ。牛もも肉。ピーマン。

 カレーのルーもあった。じゃあカレーにしようかな。

 ん?カレー?


 俺は──


 呪文を唱えた。


 ゴロンっと音を立てジャガイモがでてきた。


「役立ったわこの杖」


 パクパクムシャムシャ


 嘘だろ。何だこのジャガイモは。


「美味すぎる……!!」


 凄く甘くて濃厚なのだがクセがない。

 こんな美味しいジャガイモ今まで食べた事がない。涙が出てきた。本当に美味い。

 なんかもう全部どうでも良くなる。

 魔王なんてどうでも良い。


 いやそれは良くない。

 いくらジャガイモが美味しいからと魔王が侵略していい理由にはならない。


 ドンドンッ! 


 ……モゴモゴ、ゴクリ。や、やばいついに来た。おーいと言う声と共にドアが叩かれる。

 絶対勇者だ……なんて説明しよう。


「おーい! 佐々木君!迎えにきたよ!!」


 と、とにかくまずはドア開けよう。


 ガチャ


「よ、よう」

「どしたの顔色悪いけど体調でも悪いの?」

「い、いや別に体調は悪くない」

「じゃあ早く行こう!

 この後僧侶と弓使いの家にも行かないといけないんだ。」

「いやあのそのことなんですが…」

「ん、なんで急に敬語なの?」


 俺は深呼吸をし、心を落ち着かせて言った。


「実は俺呪文唱えても杖からジャガイモしか出なくなったの」

「ちょっと意味がわからなかったから

 もう一回言ってくれるかな」

「呪文唱えても杖からジャガイモしか出なくなったの」

「二回聞いても意味がわからないんだけど……」

「本当です……。試しに、なんかかけて欲しい呪文いってみてください」

「じゃあ、体力増加呪文プラスパワーをかけてくれるかな」

プラスパワー体力増加!!」


そう言いながら杖を一振りすると、

ゴロンと転がったジャガイモが勇者の足元へコロコロと。


「……なんじゃこりゃああああああああああああああああああ!!!!!?」


──うんそうなるよね。

 我を忘れて叫ぶよね。君のその反応は何一つ間違ってない。間違ってないよ。俺もそうだったから。そして俺は、鼻の下を擦りながら、少しドヤ顔で言った。


「こんな俺でも魔王討伐に役立つかな」

「いや無理」


ですよね。試しにカッコつけて照れくさそうに言ってみたら許されるとか思ったけど言い方の問題じゃないもんね。


「絶対無理だよ。ジャガイモで敵倒せないし」

「一応、ジャガイモ投げてゴブリン怯ませる事はできたんだけど」

「いや知らないよ」

「うぐ……た、たのむ!! ぼ、冒険へ連れて行ってくれえええええ!!」


土下座しながら、勇者にすり寄る俺だったが……


「悪いけど佐々木君……いやジャガイモ召喚士君との契約は破棄だ」


 バタン


 ──勇者に見捨てられた。

 俺は見捨てられたジャガイモだ。

 ミステラレータ・ジャガイモ1世の気持ちが今良くわかった。いや誰だそれ。

 しかも勇者にジャガイモ召喚士とかいじられた。凄い傷付いた。でも言い返せなかった。

 明日からどうやって生活して行こう。

 契約は切られてしまったのでもう給料は入らない。敵を倒せない。俺に出せるのはジャガイモだけ。

 どうしたものか。


「もうどうでもいいや……」


 ザザーン


 ──俺は海にいた。

波の音が俺の心を癒してくれる。

 ジャガイモしか出せない俺の存在を肯定してくれているかのようだ。海は器がデカイのだろう。あのちんけな器の勇者とは違う。


「あんたそこで何してんの?」

「え?」


 声がした方向へ振り向くとそこには俺と一緒に誘われていた僧侶がいた。


「なんでここに僧侶が……」

「僧侶ってやめなさいよ、凛って呼んで」

「えっと、凛。どうしたんだこんなところで、もう勇者と一緒にいる時間じゃ……」

「まぁいろいろあったのよ。まぁあたしのことはいいわ。あんたは、どうしたの?」

「き、聞いてくれるのか?」

「しょうもない話だったら殺すけど」

「ひでぇなおい。信じられない話なんだが……」


 俺はジャガイモ事情を全て説明した。


「あんた《も》だったんだ」

「うん」


 ──ん。偉く淡白な返答だな。優しいやつだ……いやそうじゃない!!

こいつ、今なんて言った!?

 あんた「も」って言わなかったか!?

 俺の聞き間違えか?ジャガイモが杖から出るようになったら耳がおかしくなるのか?

 いやそんなわけはない!


「今あんたもって言わなかったか!?」

「言ったけど?」

「ええええええええええええ!!!!!!!!!?」

「急にでっかい声だすな!うっさい!」

「いやそれは無理だろ!驚かないほうがおかしいって!ってことは……僧侶も杖からジャガイモが出るようになったってことだよな……?」

「いや状況は一緒なのだけれど私はジャガイモじゃない」

「な、何が出るんだ?」


俺は、生唾をゆっくり飲み込んでその返答を待った。


「紅ショウガ」

「ぶっ」

「何笑ってんのよ!あんたジャガイモでしょうが!似たようなものよ!」

「いやだってよりによって紅ショウガて」

「紅ショウガはカレーのお供に最適なもの。ジャガイモより輝いているとしか言いようがないわ」

「待て!紅ショウガがジャガイモに勝つなんてあり得ないだろ!ジャガイモはメインにもなるから絶対紅ショウガより上だ!

 それに……呪文唱えたら杖から紅ショウガがポロッと落ちてくるとか笑う自信しかない」


「うっさい黙れ!

 紅ショウガだってね食べ物よ!」

「いやなにその言い返し方!

 完全に負け認めてるよねそれ!」


 それから紅ショウガとジャガイモはどちらが上かという言い争いは30分にも及んだが、結局紅ショウガとジャガイモは互角という事で休戦を迎えた。


「あのさこれからの事で一つ案があるんだけど」

「なにジャガイモ野郎」

「誰がジャガイモ野郎だ!

 話を戻す。この杖から出たジャガイモって凄い美味しかったんだ」

「そうなんだジャガイモ伯爵」

「もうつっこまねーぞ。

 だから多分僧侶の出す紅ショウガも凄い美味しいんだよな。さっき言ってたよな僧侶

 カレーのお供に最適だと」

「うん」

「カレーの必須食材と言えばジャガイモ

 そしてお供に紅ショウガ。

 この二つが揃ってるなら絶対美味しいカレーが出来るはずだと思うんだ」

「つまり何が言いたいわけ?」

「2人でカレー店を作って資金を稼ぐってのはどうだ」

「嫌だ」

「いやなんでだよ!! まともに戦えない魔法使いと僧侶!これから先どうやって生活していくんだよ!!」

「それは……」

「じゃあ何か他に案があるっていうなら聞くけど」

「……ない」

「じゃあやるしかないだろ!」

「……し、仕方ないわね!わかったわよ!!」

「よし」


 半ば強引だったのだけれど俺は僧侶とカレー店を作る事になった。


──それから2年が経ち、魔王と勇者達の長きに渡る戦いは一時休戦になった。理由はわからないが魔王側が唐突に力を緩めたらしい。今後数年は、魔王も勇者も戦うことはないと噂で聞いた。だが、十数年も経てば、魔王側も息を吹き返しまた戦が始まるかもしれない。だが、今の俺たちにできることはない。今の俺たちにできることは、美味しいカレーを作ることだけだ。それんなことを思いながらカレー店を続けた。また1週間が経ち、半年が経った。


「おいおい! このカレークソうめぇぞ!!!!!紅しょうがも最高だ!!」

「綺麗な姉ちゃん! もういっぱい!!」

「ギャハハハハハ!!最高だぜ!!」


お店は常に満員。絶好調。


「なんか、上手くいってね?」

「そ、そうね」

「まぁ、とりあえず平和になったみたいでよかったわ。店も上手くいってるしな」


今は平和だけど金貯まったら武器でも買うか……。




 ある街にはとても美味しいカレー店があるという。その店の名物はジャガイモと付け合わせの紅ショウガらしく、どこの店にも負けてないらしい。このカレーを食べにくる、人間以外の生物も多いとか。


「ふむ……これがカレーというものか人間界を滅ぼさなくてよかった。魔界の奴らにも教えてやろうブツブツ……」


薄らと野太い独り言が聞こえる。


「なんかあのお客さん、ぶつぶつ言ってるし、体格デカくない?」

「んー、まぁ気にすることはないだろ。世の中、色んなやつがいるっていうしな」

「ま、それもそうね」

「パパとママって仲良しだねぇ」

「「な!?」」

「ねぇねぇ!!パパとママそろそろジャガイモの秘密教えてくれたっていいでしょ!!!僕知りたいの!!!!!」

「あー、わかったよ」

頭をぽりぽりかくと、自慢げに杖を取り出す。


「やったー!けどなんで杖なんか持ってるの……?」

「美味しいジャガイモはこの杖で生まれるんだ」

「どういうこと?」

「まぁ見てろ!ハッ」


 ゴロン


「呪文唱えたら杖からジャガイモ出てきたんですけど!!!!!!!」


「その反応、流石俺の息子!」


end

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呪文唱えてもジャガイモしか出せなくなってしまった魔法使いがいるらしい せかけ @sekake

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