呪文唱えてもジャガイモしか出せなくなってしまった魔法使いがいるらしい
せかけ
第1話 前編
「あっどうも神でーす。
いや本当に申し訳ないんだけどー。
実は昨日神友と賭け事してて私負けちゃってねー。
でー、その私を負かした相手が魔法使いを生み出した神だったみたいなのー。
それで腹いせに魔法使い達の中から何人か選んでイタズラする事にしたから。
その中の一人、君になっちゃった。てへ。
じゃ、よろしくねー」
♢
──なんか凄い変な夢を見た気がする。
だが、そんな事はどうでもいい。俺、
今日はその魔王討伐軍に召集された勇者の一人と打ち合わせで12時に俺の家で待ち合わせとなっている。自然と気が引き締まる。
現在時刻は9時。まだ3時間ある。
このまま、じっとしているのは勿体無いな。
「時間もあるし、腕ならしにその辺のゴブリンでも狩っておこう」
戦闘用の服に着替え杖を持ち俺は外に出た。そしてゴブリンがよく出没する草原へと足を運んだ。
ここら辺は草がかなり伸びてしまっていてゴブリンが隠れるのには充分すぎる場所だ。こんな所に隠れているなんてゴブリンは陰キャの匂いがする。全く、これだからゴブリンは……。俺は思わず、口を服の裾で覆う。
「……え、臭っ」
──違った。匂いの正体は、俺の戦闘用の服から香っていたただの部屋干し臭だった。外で干しておけばよかった。ゴブリンは陰キャラではなかった。ゴブリンに心の中でごめんなさいと詫びを入れる。冷静に考えれば、休みの日は家に引きこもってゲーム三昧でゴロゴロしている俺の方が立派な陰キャラだった。
「……ガウ」
「!?」
──間一髪、声を抑える。今の声はまさしく聞き慣れたゴブリンの声だ。ゴブリン自体はそれ程強くない。だが、集団で襲われれば怪我をする恐れは十分にある。ここは戦場だ。部屋干し臭とか陰キャだとか今は関係ない。
ゆっくりと辺りを見回す。
い、いた!!
全長2m。緑色の身体。手には棍棒。
「俺の存在に気づいてないのか?」
ゆっくりと視線をキョロキョロとさせている。動きは相変わらず速くはない。
チャンスだ。先手必勝。
俺は杖を振りかざし呪文を唱えた。
「サンダーボルト!!《《雷鳴の波動》》」
ゴロンッ。
──ん……?
なんか足元に何か落ちた。え、え、なにこれ。これは……ジャガイモ……? 呪文唱えたら杖からジャガイモ出てきたんですけど。
なにこれ。は? ま、まさか昨日の夢!?
いやいやいや! 笑わせるな!
そんな訳はない。ありえない。
誰が信じるというのだ。
呪文唱えたら杖からジャガイモが出てきたなんて。
「う、うそだ。も……もう一回!」
俺は再び呪文を唱えた。
ゴロン
「呪文唱えたら杖からジャガイモ出たんですけど!!!!!!!」
「ウガガ?」
しまった気付かれた!このなんとも言えない状況に思わず大声を出してしまった!!
というより誰でも出すだろ! あーくそ!!!
俺は思いっきり振りかぶり、足元に転がっていたジャガイモを手に取りゴブリンへ投げつけた。
「神ふざけんじゃねええええええええ!!」
「グェッッッッ!?」
ゴブリンが怯んだ隙に俺は、全力で駆け出した。
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