第115話 ふたりなら、きっとずっと

「穂華どうしよう。どっちが良いかな」

「どうです? 撮れてます?」

「うん、すごく良い感じだと思うよ。でもこっちのカメラ、もう少し離したほうがいいかも」

「でもそうすると外の看板が見えて場所分かっちゃうと思うんスよね」

「ねえ、それは置いておいて、どっちが良いと思う?」


 私はスマホの画面を穂華に見せた。

 陽都くんの誕生日が二月で、私はずっと誕生日プレゼントを考えていた。

 もうずっとずっと。実は夏くらいから考えていた。

 お店に行って「これがいいかな」。陽都くんとお出かけした時「これいいよね」と言ったら心の中にメモしたりしていた。

 そして十二月の私の誕生日……陽都くんはものすごく素敵なプレゼントをくれた。

 時間を積み重ねていける指輪なんて……ものすごく素敵。嬉しい。

 でもそれによって私の悩みは更に深くなった。すごく素敵なものをもらったから、私も返したい。

 すごく大好きだって伝えたいのに、何をプレゼントすべきなのか全く分からない。

 陽都くん、最近マフラーをどこかに忘れてきたみたいで「そのうち買う」って言っていた。

 だったら私がプレゼント……と思うけれど、そんなの普通な気がする。


「ねえ、穂華、何が良いかな」

「あー……なるほど。全体が入ってないんですね。スマホ内でサイズ変えられた気がします」


 穂華は撮った動画を見ながら、スマホの設定をいじる。

 穂華は今ダンスにハマっていて、毎日動画投稿をしている。

 恵真先輩が出ている番組のコンテストに応募してみたけれど、穂華は入賞できなかった。

 でも見ていた人たちに「なんだか目が離せない感じ。でもそれってレアじゃない?」と褒められたらしく頑張っている。

 今日は私と穂華が小学校の時から通っている体操教室に来ている。先生とは長い付き合いなので、今はレッスン終了後の教室を借りて撮影している。

 穂華は私の横に座り、汗を拭きながら、


「辻尾先輩なんて、そこら辺に転がってる石でも紗良っちがプレゼントしたら喜びますよ」

「何言ってるのもう。一緒に考えてほしいのに」

「もうあれですって。裸にリボン巻いて教室に転がってるのが一番ですって」

「変態、変態じゃない!!!」

「紗良っちが五年着たスエットとかでいいですよ」

「もう穂華! 真面目に考えてよ、こうして撮影に付き合ってるのに」

「じゃあもう一回、手持ちでお願いします」

「もおお~~~」


 私は穂華に渡されたスマホを持って立ち上がった。

 床に置いたものより、手で持ったカメラのほうが映えるダンスらしく、何度も持っていてほしいと頼まれる。

 私は撮影なんて得意じゃないけれど、見ていると穂華がどんどん上手になっているのは分かるから、それは良いと思う。

 何かを頑張ってる姿は、とても素敵。

 なるべく身体を上下動させないようにして、夕日が美しい教室で踊る穂華を撮った。

 穂華は踊り終わり、息を切らせながら私のほうに来た。


「はあ、はあ、どうですか?」

「うん、光がすごく良い感じに撮れたと思う」

「……わー、ありがとう。制服のがスカートが良い感じに膨らんで良いかも。撮ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

「じゃあ次は紗良っちの相談タイムですね。この前マフラーに決めたって言ってじゃないスか」

「それがね、陽都くんに『週末マフラー買いに行こうかな。紗良さん付き合って』って言われちゃったの」

「あ~~なるほど。一緒に選びたいと。つまりプレゼントとしてはナシと」

「そうなのーー、すっごく色々選んでたのに」


 穂華は私のスマホを横から見て、


「うわ、タグの数多すぎ。こんなにタグあったら何が何だか分からないじゃないスか」

「これがいいかなって思って、でもこれも陽都くんに似合うかなって、想像してたらどんどんタグが増えて」


 穂華はペットボトルを取り出して水を飲みながら、


「いや、辻尾先輩のプレゼントがすごく良いですもんね。毎年石が増やせる指輪なんて」

「そうなの!! もう嬉しくてね。そこのサイトにある結婚指輪、どれも素敵なの」

「わー……好きに並べてデザインしてくれるんだ。めっちゃ可愛い~~。良いなあ、こんなの。ずっと一緒にいるって宣言されてるようなものじゃないですか。いいなあ~~」

「でしょう? でしょう? とっても素敵なの。家で毎日付けてるの。それでキレイだなって、来年はここに入れるんだなって」


 陽都くんがくれた『毎年石が増えていく』指輪、とっても素敵で本当に気に入っている。

 だからこそ、これより素敵なものが考えられなくて。

 穂華は、髪の毛を縛りながら、


「やっぱ『時間』じゃないですかね。貰って嬉しいのって」

「時間?」

「恵真先輩って今、バチクソ忙しいじゃないスか」

「そうね、私は最近全く見ないわ。学校に来てるの? 三年生なのに」

「もう来る必要ないのに、放課後、旧音楽室だけに隙間時間みつけて来てくれてるんです」

「へえ、知らなかったわ」

「いつもダンスを教えてくれるんですよ、マジで助かってて。そのおかげで最近調子良いかなって思います」


 穂華はタオルを首に巻きながら言った。

 ダンスを教えるためだけに来てくれるなんて、それはすごく優しくされていると思う。

 穂華は汗を拭きながら、


「家から学校も結構離れてて、自分のレッスンもあるし、用事もあるだろうに、わざわざ私に会うためだけに制服に着替えて来てくれて。それって時間のプレゼントだなって思うんです」

「なるほど」

「それがガチ嬉しいっスね。応えようと思います」

「恵真先輩も、すごく穂華のこと好きだって、陽都くんが言ってたわ。ちゃんと連絡してあげて? 穂華LINEあんまりみないでしょ」

「LINEはマジ見ないんですよね。でも恵真先輩はLINEどころか、メール送ってくるんです。そっちのが見てないんですけど。でもダンスはマジで憧れますね。じゃあもう一回お願いします!」


 そう言って穂華は立ち上がり、私にiPhoneを渡した。

 時間……そうね。形がないものの方が貴重な感じするけれど、そんなのどうしたら良いのか分からない。

 センスもないし、彼氏にあげる初めての誕生日プレゼント……もう分からないの。



 誕生日当日になった。

 学校がある平日で、でも私のお願いを聞いてくれて、陽都くんは放課後全部私にくれた。 

 出かけたカフェは、大きなソファーが置いてあって、ふたりで食べられるサイズの丸くて可愛いケーキがオーダーできる。

 この店は穂華が教えてくれた店で「正確にいうと恵真先輩と甘いもの食べにいくために調べたんです。駅からちょっとあるんですけど、ゆっくりできて、予約しちゃえば周りに人がいない席にして貰えます」と予約してくれた。

 すごく嬉しい。

 陽都くんは「おおお……すごい。川? 運河? 水門? めっちゃカッコイイ」と目を輝かせた。

 ここは海に繋がる川があるところで、すぐ近くに水門が見える。

 わりと開いたり閉じたりするらしく、男の人はすごく好きだと聞いた。

 その通り、陽都くんは真上から見える水門を楽しそうに撮影している。

 そして目の前には大きな川と、入ってくる船。そして夕日が美しく見えている。

 ご飯を食べに行ったりするデートは週末にちゃんと考えたの!

 今日は当日のお祝いをしたくて。

 頼んだケーキは直径12センチのもので、ふたりで食べるのに丁度良いものだった。

 それをふたりでゆっくり食べて……私はカバンからプレゼントを出した。

 陽都くんはそれを取り出して、


「スマホリング……? いや、違うかな、腕輪……?」

「これね、すごいの」


 そう言って私は、私も買った同じリングをカバンから取り出した。

 それは直径5センチくらいのリングで、少し固い。

 陽都くんにプレゼントしたリングと、私が持っているリングを近付いて待つと、白かったリングが少しだけピンク色に染まった。


「え、これ、リングを近づけると色が変わるの?」

「特殊な素材を使ったリングでね、ふたつを近づけて置いておくと、どんどん変わっていくの。ほらこんな風に」

「え、チェックの模様になっていくんだ?! すごい、まず色がついて、それから線が入っていくの? え、すごい」

「これをね、腕につけて……こう……手を繋いでるとね、どんどん色が変わっていくんだって」

「え、やってみようよ」


 そう言って陽都くんは袋から腕輪を出した。

 私が左腕、陽都くんが右腕に腕輪をして手を繋ぐと、ほんの少しずつ、ゆっくりと色が変わっていく。

 全体が染まり、そして線が入り、全体が仕上がるまでに五年以上かかると商品説明に書いてあった。

 どうやらこれ、バイオミメティック材料と呼ばれてるもので、落ち葉の色が変化するメカニズムなどを用いて作れたものらしい。「これから先、医療の世界で爆発的に進化する」と友梨奈が読んでいた本に「こういう商品を作っています」と載っていたのだ。だから取り寄せて購入してみた。

 そういうと陽都くんは目をキラキラと輝かせて、


「俺、そういう話大好き。それにそんな最先端技術、めっちゃ面白いじゃん!」

「気に入ってくれて良かった。大学で研究されてる新技術らしいのよね。ほら、このサイト」

「おおおおクラファンやってるじゃん。面白そう」


 そう言ってサイトを読み始めた。

 私と陽都くんは話しながら腕輪をくっ付けるように手を繋ぎ、ずっと持ち歩こうと約束した。

 穂華と友梨奈に相談してよかった。

 ずっとずっと、この腕輪が完成してもずっと、陽都くんと一緒に居られますように。

 





---------

このお話はここで二度目の完結とします。

陽都と紗良のお話は、ちゃんと結末まで見えるように書けたかなと思います。

やはり高校生なので「結婚!」とかは違うかなと個人的には思っているので「このふたりなら、何があっても大丈夫」と思って貰えるような話がベストかなと。

オタク同僚も委員長彼女もそうですが、私はこのままずっと幸せが続いていくんだろうな……と思える話が好きです。


委員長彼女は、冒頭20万字(1.2巻相当部分)を書いてる時は「これはウケるだろう!」と思って書いてたのに、あまり伸びず、3巻部分に入る時はまだカクヨムコンの結果発表が出て無かったけど「この数字で賞は取れないだろう。じゃあもう好きに書こう~」と思ったら受賞して、3巻もすぐに出ることになって結構大変でした。

WEBの流れはすごく好きだったので、それを入れつつ、それでも3巻でまとめる方法……とかなり考えました。

なのでWEB版が好きな方も、書籍版は楽しんで貰えると思います。

今発売されている「いつもは真面目な委員長だけどキミの彼女になれるかな?」全3巻、ぜひお手に取って頂けると嬉しいです。

Nardack先生が本当に最高なので!

売れたらコミカライズの話とかも来るかもしれない! そしたら再び続きを書きたいなあと思っています。


なにしろ二年かけて書いたものを半年で出したので、今の所なにもないですが、またゆっくり書いていきますので、気長にお待ち頂ければ……と思います。

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。

WEBで読んで下さる方々のお陰で、50万字もある長い話が書けるんだと思います。

毎回思いますが、ありがとうございます。

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いつもは真面目な委員長だけどキミの彼女になれるかな? #委員長彼女 コイル@委員長彼女③6/7に発売されます @sousaku-coil

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