外伝13話~アイツと再会~

 さぁやって来ました海外です! みんなのやり取りを聞く限りどうやら今回の舞台はアメリカらしい。何やらビーシーデー? とか言うGIがたくさん開催されるお祭りがあるそうで、そこのレースに俺達は出走するそうだ。


 ははは! 通りでコールやセチアもいる訳だ。びっくりしたぜ。またマイル戦線で2人とかち合うかと。もしそうなっていたら……考えるだけで恐ろしい。


 まぁ、少なくとも1600mはキツいわ。1800mからならこなせる自信がある。逆に3200m超えたら自信もねぇけど。だって走ったことないし。そもそもスタミナが持たんて。


 俺が1番力を出せるのは1800~3200mだな。後は1歩落ちる。前走安田記念は勝ったが、あれは上手く行きすぎた。


 シャドーフェイスが俺や妹弟に向き合わず自分とだけ戦っていたらやられていた。コールやセチアも俺以外なら焦ること無く冷静に走れたはずだ。フェイなら1馬身とは言わず、もっと千切られていたかもしれない。


 だから多分、1600mは俺に合ってない。もちろん素のスペックが高いからGI級ではあるがな。超一流にはなれん。あぁ、あと芝とダートに大差は無い。


 え? ダートはお前1度グルグルバッドにやられてるだろって? うるせぇ! それはアイツが……超一流のダートホースだっただけだ。次は負けない。



『兄さんどうしたの? どこかに着いたよ』



 なんて考え込んでたらセチアに指摘されて意識を戻す。アメリカに到着した俺達はそのまま馬馬車に揺られていたからな。目的地に到着したらしい。



『バカねセチア。お兄ちゃんは新天地のボスになるための作戦を考えているのよ。だからあんなに真剣な表情をしていたの』


『そ、そっか。ごめん兄さん邪魔をしたかも』


『んな事考えてねぇんだよなぁ』


『あっ、考えるまでもなかったらしいわ』


『さすが兄さん!』



 一体俺をなんだと思っているんだろうか……? っと、馬馬車の扉が開いた。サンキュー沢村! ふははは! 俺様に逆らう奴は全員ぶっ潰してやるよ!



『……』


『……あっ、ファートムの兄貴!』


『……人違いです』



 おい、沢村。閉めろ。お前、道を間違えただろここはアメリカって言ってたじゃないか。なんで……なんで目の前に、オーソレミオの奴がいるんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!



***



 俺が日本馬として初めて凱旋門賞を制したあの日、最後まで不利を受けながらも倒れることなく食らいついて来たのがオーソレミオだ。はっきり言うとレースでは俺に負けたが、俺より強い世界1の男だろう。



『お久しぶりです! ファートムの兄貴も走るんすか!? また一緒に勝負しましょうよ! 今度は俺が勝ちますから! あっ、ここにいる生意気な奴らは俺が全員締めておきましたからささっ、どうぞどうぞ』



 なんてことしてくれてんだお前。



『へぇ、私のお兄ちゃんの弟分なの。見る目あるじゃん!』


『兄さんの魅力は海外にも、やはり兄さんは兄さんだなぁ』



 やっぱりね、どうしても聞きたかったんだけどさ、お前らの中の俺って一体なんだと思われてるの?


 案内された牧場に足を踏み入れると最初こそ目をつけられたが、オーソレミオのせい(お陰)かあっという間に統率がなされ、すぐに俺が新しいボスとなった。



『この調子でお兄ちゃんの群れをドンドン増やすわよ!』


『任せてください姉御!』


『姉さんの言うことに従うのは癪だけど、兄さんが喜ぶなら僕も全力でお手伝いするよ』



 セチア、お前これ俺が喜んでる顔に見えるわけ? 揃いも揃って目腐ってんだろお前ら。


 その次の瞬間、空気が一変する。……この雰囲気、間違いない。あいつが……いる!



『……ん? ステイファートムじゃないか』


『グルグル、バット……!』



 現れたのは俺がサウジカップで敗れた因縁の相手、グルグルバットだった。さっきの気配、間違っちゃいなかったか。



『お兄ちゃん、この人誰?』


『はじめまして美しいお嬢さん。グルグルバットだよ、よろしくね』


『はぁぁ? お前なにうちの妹に色目使ってるわけですか? ぶっ潰すぞ?』


『情緒不安定かよ君は』



 コールの質問にキザな受け答えをしたグルグルバット。こいつやはり許すまじ。それはそうとお互いの自己紹介は済ませといた。



『なるほど、じゃあこの舞台も初めてなわけだ。前回のサウジカップの時といい、先輩風を吹かせるわけじゃないけど色々と教えることはできるよ』


『結構だよ。それより、お前が居るってことはダートのレースがあるのか?』


『そうだね。去年も走ったレースのはずさ。逆に聞くけど、君も居るってことはまたダートを走るのかい?』



 グルグルバットに問いかけられる。リベンジマッチしたいって気持ちがない訳じゃない。寧ろありまくりだ。だが、俺がダートを走ることはもう無いだろう。


 前回の走りで俺は敗れた。普通に考えて芝で勝てる馬をわざわざ負けたダートで再び走らせるなんてするだろうか? それになにより……。



『いや、オーソレミオも含めて俺達は全員芝馬だからな。芝のレースになるはずだ』



 オーソレミオがいる。って事は俺は中距離の芝レースで再びオーソレミオと戦うことになるはずだもんな。コールとセチアはマイルレースで再び激突だろうか?



『そうか。それは残念だ。もし出てくるなら君を再び叩き潰す良い機会だったんだが』


『あ? たった1回で全て格付けをつけたつもりかてめぇ? 1回走って脚は覚えた。次以降、勝つのは俺に決まってんだろ? ぶっ潰すぞ』


『怖い怖い。だが、君が参戦したとなればさぞや盛り上がることだろうな。そのより輝きを放ったレースが俺をさらに輝かせる。また走ろう、機会があればの話だけど』


『驕り過ぎだぞてめぇ。次走ったら俺が勝つからな? 最初の1回は出血大サービスなの忘れんなよ? あ?』



 ちっ、生意気言いやがって。だが実際、ダートじゃ俺はこいつに勝ててねぇ。悔しいがな。……でも、次当たるとしたら勝つ。絶対にだ。


 グルグルバットの奴は言いたいことは言えたのか、すっきりとした表情で去っていく。はっ、まぁいい。アイツがダートで負けるとは思えん。次に当たるまで待ってやがれ。



『兄さん、あの馬、強いの?』


『お兄ちゃんを負かしたって本当に?』


『兄貴を破るとは大した奴ですね』


『……まぁな』



 おっと、不安にさせてしまったのか? まぁ俺を慕ってくれるのは嬉しいが、もしこれで幻滅されたら悲しくなるな。



『じゃあ次は勝ちましょう兄さん!』


『うんうん。お兄ちゃん、いつも言ってるもんね』


『兄貴はいつも、敗北が俺達を強くする。次に活かそう!って』


『…………そうだ。そうだな!』



 ははは、情けねぇ姿を見せちまったと思っていたが、どうやら違ったようだ。今まで俺がこいつらに教えてきた言葉なんかを改めてぶつけられちまったな。


 グルグルバットには次は勝つ。それは決定事項だ。でもその前に……。



『オーソレミオ、次のレース負けねぇからな?』


『ふっふっふっ、兄貴とはいえこの前のようには行きませんよ? 次は勝ちます』


『やって見やがれ!』



 まずはオーソレミオとの再戦からだよな。やってやるぜぇぇぇ!!!! そしてレース当日を迎える。



『……ステイファートム、なんでいるんだい?』


『俺が知りてぇよ!』


『えぇぇぇ!? 俺もダートを走るの!?』



 レース当日、俺はオーソレミオと共に砂の上に舞い降りたのだった。



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生存報告代わりの投稿。

22年12月20日が本作の初投稿日。外伝投稿が23年8月。時が流れるのは早いね。怖い。

菊花賞は

1着ダノンデサイル

2着コスモキュランダ

3着アーバンシック、ヘデントール、ピースワンデュック

の三連単3通りでいきます(デサイルとキュランダを入れ替えるか思案中)

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競走馬転生~ステイファートム《運命旅程》~ どこにでもいる小市民 @123456123456789789

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