002:旅路
「王都ってどんな所なんですか?」
「エクシアとはまた違った良い所があるぜ。人が多いし、みんなバカだし、毎日お祭り騒ぎって感じだな」
サイドカーに乗るカミナと会話しながら、俺達一行はモヒカンの旅を楽しんでいた。
カミナはこの世界の常識に疎い。先程「久々に王都に行くなぁ」という話をしたところ、なぜなぜ期に入った子供のように質問攻めしてきたのだ。
王都って何ですか。王都ってどこにあるんですか。王都って誰のものなんですか。王都って、王都って、王都、王都、王都……。
王都までの道中は結構暇だから、カミナの質問ラッシュは逆にありがたかった。
……ワイトも常識を知らない怪物だが、カミナと比べちゃいけないな。そう思いながら、俺はカミナに王都や王様のことを話して聞かせた。
「――んでな。王様が面白い御方でよぉ? 召喚魔法を使って異世界人を呼びつけたり、お忍びとか言いながら連日カジノに入り浸ったり……」
「聞いてる限りだととてつもない暴君じゃないですか……」
「実はそうでもないんですわ。オレのデータによると、国王の支持率は驚異の99%。ヤバいやつではあるんですが、政治手腕自体はあるし政策の締まりがいいと評判なんです」
「へぇ……締まりいい、がねぇ……」
「しかもイケオジって評判スよ」
「アハ! 結局人は見た目だよね〜」
「何てこと言うんだ! 否定はできねぇけど……」
王都と言えば、クソでかい王城とギルドがシンボル。つまりそこにいる国王と高ランク冒険者が街の象徴と言えるだろう。
俺の昔の仲間は最前線の街ロジハラにいるはずだから、王都にいる高ランク冒険者なんて俺の知らない人達ばっかりなんだろうなぁ。
『見た目と言えば、魔王様も身だしなみには気をつけろと口酸っぱく言ってましたねぇ』
「大型組織のトップともなるとやっぱり意識が高いんスねぇ」
『当然です。ちなみに私は昔からローブだけでやってきましたけど、魔王様に直接お会いした時は「頼むからパンツを穿いてくれ」と頼まれたことがあります』
「いやパンツローブはまずいだろ!」
「キモ骸骨……」
『何故私!?』
カミナがチベスナ顔をしながら、同じサイドカーに乗り合わせるワイトを睨めつける。ワイトは自分が責められそうだと悟った瞬間、アンデッドの姿から例のケツの弱そうな美人女騎士の姿に変身した。
その術は俺に対してはある程度効くけど、カミナには全く効かない。目をうるうるさせたってダメだ。肋骨が透けてる。
「ん? 前に馬車が走ってるぞ」
「アハ! 追い越し車線をトロい馬車が走るとかナメてるのかなぁ?」
「オメーこそ何言ってんだ?」
王都に向けてバイクを突っ走らせていると、視界の奥から馬車が近付いてきた。馬とバイクじゃ、さすがにバイクの方が速い。レックスが速度を上げて(それでもなお)安全な追い抜きを試みていたので、俺達もそれに続いて会釈しながらオーバーテイクしてやる。
ガタガタと揺れる荷台の先。馬に向かって鞭を振るう男を見て、俺はあっと声を上げた。
「ご……ゴドーさんじゃねぇか!」
「そのモヒカンとバイクは――もしやノクティスさんですか!?」
「何だよゴドーさん! 奇遇だな、アンタもこっち方向に行くのかよ!?」
ゴドー・デイフォー。俺に盗賊の殺害を依頼してきた血気盛んな商人だ。ミーヤら3人のガキ共と一緒に依頼をこなしてから一度も会えていなかったが、まさかこんな場所で会えるなんて。
いつかまたご飯一緒に食べに行きましょうって談笑して別れてから、結局メシ食べに行けてなかったんだよ! ひでぇよな社交辞令って! 俺は本当にメシ食べに行きたかったのに!
え、誰っすかという反応で見てくる俺以外のメンバー。俺と一行の間のテンションに隔たりはあったが、気にせずゴドーさんとの会話を続ける。
「
「俺も王都に向かうんだよ。ってことはしばらく一緒になるな! その間盗賊から守ってやるよ!」
「ふふっ、頼もしいですねぇ」
穏やかに微笑むゴドーさん。前に会った時よりも若返っている気がする。
多分、盗賊を捕まえて投獄させたもんだから旅路がストレスフリーになったんだろう。人はストレスによって老けたり老けなかったりする。ゴドーさん、10歳くらい若返ってないか?
「あ、みんな。こちらは商人のゴドーさんだ」
「初めまして〜」
「おはようございまっス」
「バイクに乗りながらの挨拶ですけど、すみませんねぇ……」
モヒカン達が頭を垂れて挨拶する中、俺はゴドーさんに王都に向かう理由を質問してみた。
「商売のためではあるんですけど……実は国王がご乱心なのです。流石にこれはと思いまして、商談の傍ら様子を見に行く予定です」
「ご乱心? 王様に何かあったのかよ」
「それが……国王は『国王でも冒険がしたい!』と駄々をこねてらっしゃるのです。やれ『吾輩は実は最強でお前ら引き止めてももう遅い、になりたい』だの、『老若男女のハーレムを作って吾輩だけ入れるダンジョンでスキルを磨きたい』だの……よく分からない若者言葉を連発しているようで……」
「いつものことじゃねぇかよ」
王様がご乱心って言うから……側近をクビにしまくったとか、てっきりソッチ系の権力乱用だと思っていたが。
冒険者願望は王様のいつもの妄言だ。異世界からのよく分からん輸入語録も健在の証拠だな。
『と言うか王様ならハーレム作り放題では?』
「純粋に自分の力でハーレムを作ってみたいそうです。色眼鏡にかけて欲しくない……ということなんでしょうか?」
女騎士ワイ子が半透明部分を隠しながら会話に参加する。どうやら冒険に出たくて仕方ない国王に対して、側近が「国王なんだから政治しろよ!」って引き止めてるらしい。
側近は胃が痛くて仕方ないだろうな。内容は違うけど、俺もワイトのせいで似たような目にあったから……気持ちは痛いくらい分かるぜ。
「あ〜俺達が王都に行く理由はな。俺達デュラハンを倒したから、それ記念の式典にお呼ばれしたんだよ。エクシアの街以外にもこの噂って伝わってるのか?」
「もちろん存じておりますとも。私、ノクティスさんに個人依頼を出したことがあったでしょう? デュラハンを討伐した後、時の人になったノクティスさんへの依頼内容で会話が盛り上がって商談が纏まる……なんてこともあったくらいです」
「なんか照れるな」
商人ってのは冒険者以上にコミュニケーション能力の問われる職業だ。口が上手くなけりゃ商談を取り付けられないし、しっかりとした会話で信頼を積み重ねていかないとビジネスがスムースに運ばない恐れもある。
それに、業界内外で交友が広い方が何かと有利だし、その交友関係から得た情報で売れ線の商品を判断しなきゃいけないし……まぁ俺には向いてない仕事だな。ゴドーさんはすげぇや。
世間話に花を咲かせた後、日が暮れてきたので馬車とバイクを止めてキャンプファイヤーを燃やす。
ゴドーさんの馬のペースに合わせていると法定速度を守れていいぜ。レックスが速度を上げたそうにやきもきしていたが、次第に会話が楽しくなってきたのか積極的に参加してくれた。
「ホラ見て。コレ、火炎放射器なんだけど……この通り肉も焼けちまうんだ。中までしっかり火が通るから食中毒も心配なし」
「おぉ……凄い火力ですな」
肉を焼いて、シチューを作って。騒がしい夜の宴が始まる中、ゴドーさんは荷台からワインの入った瓶を持ち出した。
「それは……?」
「個人的に嗜む予定だった物です。いかがですか、皆さんも」
「アハ! もらうもらう!」
「綺麗ですね! それ、頂いても良いですか?」
「構いませんよ」
食いつくレックスとカミナ。木製のコップに赤紫色の液体が注がれる。続いて俺、ゴン、ピピン、トミーの順番にワインが配られると、最後にワイトへコップが渡った。
おい、そいつ骨だけど大丈夫なのか? めっちゃ凝視してる。姿形は人間だけど、中身が骨だから飲めないのかもしれない……。
乾杯後、いの一番にワイン入りコップを持ち上げるレックス。するとレックスはどこぞの美食家の如くワイン入りコップを斜めに傾け、キャンプファイヤーに透かそうと顔を斜めにした。
……それは透けない木製のコップなんだが、何の真似なのかな?
ゴドーさんがそんなレックスを見てブハッと吹き出す。俺も正直吹きそうだったがギリギリのところで我慢した。
しかし、「ォアア! なんですかこれ!」と顔をくしゃくしゃにしながら舌を出したカミナを見て、堪えられず思いっきり吹いてしまう。
マジでバカだこいつら。トミーはコップ1杯イッキ飲みしてぶっ倒れてるし、カミナは興味津々だったくせに口に合わないからってピピンに押し付けてるし……。
レックスはワインを鼻先に近付けてクンクンと香りを嗅ぐ。その時間、たっぷり120秒。結局「?」という表情をしながら、レックスは赤紫色の液体を口に含んだ。
多分こいつの口元の動きからして、ワインを舌の上で転がしてるんだろうな〜。なんもわかってなさそう。ちなみに俺も何やってるかは分からん。
どんなコメントが聞けるのかなぁと思いながらゴドーと共にレックスの様子を見ていると、彼は穏やかな表情で深く頷いた後、大きく息を吐いた。
「アハ! 昨年のワインは過去50年で最高と呼ばれるほどの出来だったけど……このワインは昨年の物よりも高品質。豊満で絹のように滑らかな味だね!」
急にどうした?
ふわふわ言葉のバーゲンセールでビックリだよ。少し前の自分の行動を思い出してみてほしいわ。
ゴドーさんが肩で息をしながら「美味しいですね」という震え声を振り絞る。
確かに美味しいワインだ。エレガントで酸味と甘味のバランスが絶妙……上品で味わい深い余韻がある。マジの高級ワインだと思うんだが、レックスは分かってないんだろうな。
「美味しい……こんな味オレのデータに無いぞ?」
「な……なんだあっ! 視界が揺れて……敵の魔法か!?」
ピピンとゴンもか……。
本当、
『…………』
ほろ酔いモヒカンの観察は気が済んだので、金髪碧眼のワイトの方を見てやる。
ワイトは静かに泣いていた。ゴドーにもらったワインや食料が顎の下の皮膚(のように見える虚像)を貫通して地面に落下していたからだ。
消化器官がないから、アンデッドは飲食を一切必要としないんだったな。
こいつと出会って初めて、ワイトのことが哀れな存在に感じられてしまった。
夜は更け、笑い声と篝火が夜空へと昇っていく。
楽しい夜はこれからだ。
「ギャハハ!おいガキ!オメーがBランクの冒険者になれるわけねぇだろ!」 へぶん99🐌 @chopman
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