第31話 満ち欠けパズル
高校生の私からしたら少し高級感のある場所、美術館。普段の私なら行くという選択肢はきっと生まれない。
「ねぇ、ほんとに良かったの?あたしは楽しい場所だけど…春はつまらなくない?」
「ううん、つまらなくないよ。それにさ、こういう機会がないと自分では行かないような場所だから…むしろ来れて嬉しい。」
正直な感想を述べると作品の素晴らしさ、魅力などを私は感じ取ることが出来ない。けどきっとそれは、私が大好きな日向ぼっこを他人からしたらなにも楽しくない、退屈、と思うのと近いものなんだと思う。
「………。」
作品を見つめる美姫の姿はすごく綺麗だと思った。むしろ美姫も含めて1つの作品なのではないか。
「ねぇ、春。」
「ん?」
美姫は作品から私へと視線を移した。
「…今欠けているパズルのピースの1つが、元通りになったとしても…
あたし達は、今と変わらないよね…?」
私は少しもの間美姫を見つめてから、美姫が鑑賞していた作品を見てみる。…その作品は、向かい合った人間が描かれている未完成なパズルだった。左側にいる人間は''おいで''と言いながら両手を少し広げているように見える。…右側にいる人間はただ左側の人間を見つめているだけだ。そしてこのパズルの最後のピースは未完成のパズルの横に飾られており、よく見ると右側の人間の手が描かれている。…その手にはナイフが握られていた。
この作品はパズルが未完成の時は幸福が感じられるような絵が想像でき、最後の1つを合わせてしまうと不幸を感じさせる絵が完成する。…素人の私がうまく説明は出来ないけど、''欠けている何かを元に戻すのは本当に正しく、皆を幸せにすることなのか''を表現しているのだと思う。
「……似てるかもね、私たちに。」
「…。」
「…でも、全然違う。」
「!…そう、だよね。…うん、全然違うね。」
美姫の強ばった顔が、少し穏やかさを取り戻した気がした。
「……なんか、全部元通りに完成したら…。春がどっか遠くに行っちゃう気がしてさ。」
「…ぇえ?どうして?」
私は笑いながら美姫に問いかけた。
「…春は自分より他人を選ぶからだよ。」
「…んーよくわかんないや。」
壁に展示された作品へ視線を戻す。
「しかしよく出来てるよね。尊敬しちゃう。」
「結構面白いでしょ?」
「うん、少々かなり。」
「それはどっちなのさ。」
緊張が解けたみたいに2人で微笑み合う。
「甘いもの、食べいこっか。」
おやつの時間だもんね!そう言いながら私たちは美術館を出た。
《晶視点》
「〜〜〜!!温泉最高ッォ…。」
「新幹線で長い時間座ってたから尻に効く…。」
男2人の温泉描写は全然興奮できないですよね。俺の友達なら女の子がいいと言うと思います。
「晶、どこ見てんの?」
「いや、少しのぼせてた。」
「え、上がった方がいいでしょそれ。」
4人での旅行は本当に充実していた。初日から温泉だなんて家のお風呂に入れるか心配になる。いや逆にホームシックみたいな感じで家のお風呂が恋しくなるのか?
「そういえばこの近くにスキー場あるみたいね。」
「……行きたいのか?」
「んー?今日は別にいっかなって感じかな。……。晶って肌スベスベだね。ゲレンデ?」
「おーう荒れ知らずだな。せめて雪みたいって言いなさい?」
「肌綺麗な人って女の子からモテそうだよね。」
「…別にモテなくていい。」
「けど実際モテてたでしょ?中学の頃。」
「まぁ陸上部だったから…運動出来る人が好きな女子から告白はされた事ある。」
「あらやだ〜♡」
こんな事言ってるけど日向は彼女いない歴は0ヶ月だ。俺は彼女いた歴0ヶ月。
「で?で?付き合ったの?」
「いや、好きじゃないから。」
「あら〜色男ぉ。」
「……。なぁ日向。話変わるけどなんで陸上やめたの?」
「……うーん飽きちゃったんじゃないかなぁ。別に高校でも陸上やりたいって思わなかったし。」
日向は少し上を見つめて曖昧な返事をした。
「晶こそなんで?確か晶は良い選手だったじゃない。」
「…なんて言うか…目標が見えなくなった。」
「目標?」
「んー…。小学生の頃に決めたんだ。誰よりも速くなるって。…中学までは自分よりも速い人がいたし、頑張れたんだけど。…気づいたんだよ。いくら足が速くなっても、届かないものってあるんだなって。」
その届かないものを俺は今でも追いかけている。けどいくら頑張っても、指さえ触れられないんだよな。
「…あとさ、
やっぱ好き?春ちゃんの事。」
我ながら直球だな。
「……。」
「いや、いいや。答えなくて。」
「…。」
「興味無いや。」
「…やだもぉひど〜い。晶さんったら。」
「…出るか。」
そんな事聞いてどうするんだよな、ほんと。
日向ぼっち 甘井りんご @hanjyukunitamago
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