第30話 作者は塩が好き

 新幹線の窓から光りが差し込む。その光りを覗いてみると赤や黄、橙色と、秋が彩られた大きな絵画作品が目に映った。

「もう秋かぁ…。」

 晶がそう呟く。

「なんかあっという間だよね…。もうさ、高校生活の半分が終わったんだよ?あたし達、来年の今頃はそれぞれの進路に向けて忙しくなって…。今のうちに色んな所、行こうね。」

 次に美姫がそう言い、私を横目で見ながら少しだけ色っぽく微笑んだ。

「来年の今頃は受験か…晶は就職するんだっけ。」

「え、まじで?大学行かないの?」

「…うん。…日向が今言ったけど、俺、就職しようと思ってる。…母さんは遠慮しなくていいのにって言ってるけど、高校に通わせてくれてるだけで充分だよ。」

「そっか…。晶なら、立派な社会人になれるよ。あたしが保証する。」

「あ、じゃあ僕もそれで〜。」

「生注文する時みたいに言うんじゃねぇ。」

「ふふっ…。」

 美姫の言う通り、私たちが同じ制服を着て、同じ学校に通い…こうして笑い合えるのも残りわずかなのだ。

「…卒業してもさ。こうしてみんなで会いたい。」

 美姫がいつもより私たちに甘えている気がした。

「……。」

「…うん、会おうよ。」

 男子が2人が私を気遣ってか沈黙していたが、私は美姫ににっこり笑いかけた。





 ……もし記憶が戻っても…今まで通りだよね?




 新幹線での数時間、4人で色んな話をした気がする。体育祭楽しかったね、とか。クラスの誰々が最近彼氏出来たらしくて浮かれてる、とか。…1学年の先生と3学年の先生がデキテル…など聞いてはいけないような話もして凄く盛り上がった。

「着いたね〜!!お腹空いた〜!!」

「早速かよ。」

「…もうお昼だもんね。何食べようか…。」

「はいはーい!僕ラーメン食べたーい!」

「はーい!あたしもラーメーン!」

「おっけお兄ちゃんが調べるわ。」

 晶お兄ちゃんがスマホをタップする。

「あたしさー。ラーメン巡りしたいんだよね〜。味噌ラーメンって場所によって結構変わるじゃん?比べてみたいんだよね〜!」

「味噌ラーメンにこれ絶対なトッピングは何か選手権しようぜ。」

「っぁ〜…あたしはバター!!あったら絶対入れる!!」

「僕にんにく〜!!春は??」

「…私はコーンかな。」

「あー!!コーンも間違いない!!晶は?!」

 晶が指を止めてこちらに目線を合わせてくれる。

「んートッピングか微妙だけどもやしは絶対欲しいな。ところでここなんてどう?冷やしラーメンが美味そう。味噌ではないけど。」

 美姫が私の肩に顎を乗せる体勢で覗き込む。

「え!いいじゃんいいじゃん!!行こうよ!!」

 小さな子供のように興奮した姿の美姫を目で楽しみ、私たちは目的地へと足を進めた。




 そうそう、私知ってる。美姫ってさ、こんなに可愛く笑うんだよ。





「この後なんだけどさ、宿まで時間あるからどこかに行こうかと思ってるんだけど行きたい場所ある?」

 冷やしラーメンを食べ終えた晶がみんなに問いかけた。

「あーどうしよっか…。私はみんなが行きたい所に合わせるよ。」

「俺も。2人は?」

 日向が少し唸ってから口を開く。

「…確か有名な温泉があったよね?僕そこ気になるから行きたい!」

「おーいいんじゃない?美姫は?」

 3人の視線が美姫へと移ると、冷やしラーメンを食べる前とはうってかわって静かにしていた美姫が少し重そうに口を開いた。

「…美術館に、行きたい。」

「美術館?」

「うん、美術館。…行ってみたかったの、1度だけ。…わがままだけど、1人で行ってきても…いい?」

「…僕らも行こうか?」

「ううん!いいのいいの!!…みんなは温泉行ってきてよ。あたし自分勝手に行動しちゃうだろうし…。」

 美姫は私たちに遠慮して1人で行くと提案した。

「…私が一緒に行くよ。」

「え!!いいよいいよ!温泉行きなよ!」

「うーん…美姫と一緒に行きたいんだけど、嫌?」

 私が少し詰めると、美姫は俯きながら素直な気持ちを話してくれた。

「…嫌じゃないよ…。むしろ嬉しいに決まってるじゃん…。」

「うん、じゃあ決まり。」

「…春ちゃんが一緒なら安心だわ。じゃあ男、女で別行動。…16時にここに来れそう?」

「…うんうん。大丈夫。任せて。」

「まあ〜!春って頼りになるわ〜♡美姫のお世話よろしくね〜♡」

 馬鹿にするな〜!と少し眉を釣り上げてみせた後、美姫は男子2人からは見えないよう、私の手をそっと握った。

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