第29話 変わらない僕達
「.....。」
晶から行き先を聞いた私達は少しの間、全身の動きを止めてしまった。穏やかだった空気が一瞬にして張り詰めた気がする。
「.......なんで?」
美姫が最初に口を開く。
「なんでっ...よりにもよってそこなの...??」
「.....。」
晶は少し間を置いて考え、美姫の問に対して答えを出した。
「春...ちゃんが.....事故にあった所だから。」
「...!!」
そこは...事故にあって、記憶をなくした場所。
「春ちゃんの記憶が戻るかもしれない。」
「…そんなの!おかしいじゃん!!」
美姫は興奮を抑えきれず、警戒した犬が吠えるように晶に反論した。
「そんなの…っ!可哀想だよ…。楽しい旅行にしたいのに…!…春だけが…辛いじゃん…。」
吠えたのも束の間、今度は今にも泣き出しそうな声で訴えている。
「……けどやっぱり。このままじゃダメだと思うんだ、俺。…今は今で楽しいけど。…楽しいからって理由で、解決しないといけない事を無視するのは違うと思う。…ましてやこれは、春ちゃんの問題だし。」
「……。」
私はチラリと、静かにしていた日向の顔を伺った。日向は何も言わず、いつもとは違う真剣な表情で2人の口論を見守っている。
「……ごめん。日向と春ちゃんにこんな喧嘩見せるべきじゃないよな。」
晶は気まずそうに視線を私たちから逸らす。
美姫も黙ったまま俯いている。
「……僕はそこがいいと思う。」
「…え?」
今まで話に入らなかった日向が口を開き始めた。
「…春は…ちゃんと記憶を取り戻すべきだ。…そこに行く事によって記憶が戻る可能性が少しでもあるのなら…僕はそこにするべきだと思う。」
「………。」
いつも冗談を言って私たちを笑わせてくれる日向。そんな日向がこんなに真面目に意見する姿を、私はあまり見た事がなかった。
「…私も、その方がいいと思う。」
私はただ、それだけを言った。
修学旅行当日。…私は集合場所へと向かった。駅はたくさんの生徒で混雑している。…皆私服だからか、何だかすごく不思議な気持ちになる。
「あ!いたいた!おーい!」
少し遠くから私を呼んで手をぶんぶん振っている3人組がいた。
「…!…お待たせ…!」
私は少しの距離を小走りで駆け寄り、3人と合流した。
「今日別の高校も修学旅行なんだなー。もうちょっとわかりやすい所で待ち合わせればよかったね、ごめん。」
「まあ結果4人とも会えたんだしいいじゃん!」
晶が謝り、美姫は励ます。
「日向今日はちゃんと私服で来たね。」
「俺がコーディネートしました!昨日日向の所に泊まってそのまま一緒に来た!」
「やだ〜晶くんのセンスだから僕モテちゃう♡」
いつも通りの4人で今日この日を迎えられた事に嬉しく思えた。
結局私は修学旅行の方を休んだ。少し罪悪感があったけど…担任の先生に事情を説明したら許可が貰え、一緒の班に入れてくれた子達には熱で休むと伝えてくれるとの事だった。
(白川さん?にだけでも伝えるべきだったかな…。)
結局伝えなかったのだから今何かを考えても仕方がない。
「春。」
日向が私に声をかける。
「大丈夫。僕達が一緒だから。…それに。僕達は今まで通りさ。」
日向はきっと、私が事故にあった場所へ行くものだから不安なのだと思ってくれたのだろう。実際私が考えてた事は違うことだが、そんな優しい日向に真実を教える事もないなと、そう思った。
「うん…そうだね…。楽しもうね。」
私は微笑みながら3人に言う。
そして私たちは改札へ向かった。
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