第28話 天秤
「...旅行?」
美姫は私たち2人と顔を見合せた後、晶に聞き返した。
「そう!旅行!...俺と日向もさ、別々の班にされちゃったんだよ。なぜか。...だから俺もあんま乗り気じゃなかったし、春ちゃんと美姫もそんな感じなら...って思うんだけどどう?」
「それめっちゃいい!え、行こう行こう!」
「うん...その方がいいかも...!」
私と美姫は晶の意見に賛成した。
「よし!じゃあ決まり!!」
晶は乗り気な私たちを見て嬉しそうにしている。
「えっとぉ...僕の意見は...。」
「あー日向はどうせ4人で行きたいって言うから大丈夫!」
「どゆこと?!...いやまあ僕もそっちの方が行きたいけど...。―――。」
「問題ないね!じゃあ修学旅行はさぼって、俺らはプライベート旅行だ!!」
私と美姫は手を合わせて喜びあった。憂鬱だった旅行が、今は凄く凄く楽しみで仕方がない。
「春、すっごく嬉しそう!」
「え、?えっへへ、そう〜...?」
美姫に、春ってほんとわかりやすいと言われながら頬をつんつんされた。頬の熱がバレないよう神様に祈る。
''「――それに、春も一緒だしね。」''
彼は皆に聞こえないよう、小さな声でそう言ったのを私はちゃんと聞いていた。
満腹で眠い数学の授業を絶えたあとの6時間目。私たちのクラスは体育で盛り上がっていた。
「パスパース!」
授業内容はバスケだ。
私は体育館の隅っこで女子達の戦いを観戦していた。バスケはやるのはもちろん、見るのもとても楽しい。
(あの子はバスケ部だな。素人の動きじゃない。...あ!今のパスの出し方、凄く上手!)
たぶん私は心の中で興奮しながら間抜け面をしていたであろう。
「あんどーってば。」
「あ、はい!すみません...!」
なぜなら先生の声が聞こえない程夢中になっていたのだ。
「安藤。たしかお前、バスケは...。」
「あ...授業程度なら大丈夫ですよ。」
「そうか、じゃあ次の試合入ってくれ。」
「あ、はい。」
こちらの体育の先生は我が校のバスケ部顧問。中学時代の私の怪我の事も把握してくれている。
「...無理そうだったらすぐに言ってな。」
「はい。...ありがとうございます。」
「はーいそれじゃあBチームとCチーム、試合するよー。」
私はビブスに首を通し、列に並んだ。
「安藤さん!!めちゃくちゃかっこよかった!!バスケ上手すぎ!」
「え、てかうちの部おいでよ!うちより上手じゃん!!教えて欲しい!!」
試合終了後、女の子達に囲まれてしまった。
「...え、えっとぉ〜...。」
どうしよう...。圧力が凄すぎて何も言えない...。
「おーい白川。安藤を誘うな。困ってるぞ。」
「先生!でも安藤さんうちより上手!安藤さんがいれば大会で良い成績残せますよ!」
「...もう既に誘ってるし断られた。安藤にも事情がある。諦めろ。」
先生が助け舟を出してくれた。
かなり久しぶりにボールに触れて、コートを走った。...約2年ぶりだからやはり体が思うようには動かない。白川さん?は私を褒めてくれたけど、現役の私はもっと凄かったと思う。...自画自賛もいい所だが。
「ご、ごめんなさい...。けど、ありがとう。嬉しい...です。」
本当に...本当に楽しかった。
「てかうち!安藤さんと同じ班だから!敬語じゃなくていいよ!...楽しみだね!修学旅行!」
「.....。うん、楽しみ。」
この時の私は、うまく笑えていただろうか。
「あー!今日もつっかれた〜!6時間目の保健の授業ほど退屈なものはないね!」
放課後、いつもの4人で学校から家へ帰る。
「ねぇねぇねぇ!場所はどこにする?あたしは北海道に行きたいな〜。」
「それは流石に無理だろ。今の時期寒いし。」
「えーじゃあ沖縄?」
「いやもっと無理っしょ。」
4人で旅行...。私が望んでいたことだし、本当に楽しみ。...けど。
''「楽しみだね!修学旅行!」''
あの子の言葉を思い出し、一緒の班になるのが嫌だと思っていた事に自己嫌悪する。きちんと知らずに、勝手に怖い人だと悪く言ってしまった。私はなんて愚かなんだろう。本当に...何も言わずにこの旅行に行ってしまって良いのかな...。
「行く場所なんだけど、実はもう考えてあるんだ。」
「えー?勝手にぃ〜?まあでも晶が決めた場所なら大丈夫か。...で、どこなの?」
「俺らの行く場所は、――――。」
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