第49話
雪が降り始めた。ゆっくりと舞い落ちてくる白の結晶が僕の頬を撫でる。とても冷たかったけれど、その感覚も心地良い。
空を見上げると分厚い雲が一面を覆っていて、昼間だけど少し薄暗かった。
水をくみ終えた凪沙が、僕の隣に来る。ちょうど冷たいなと思っていた手を、凪沙はやかんを持っていない方の手で包んでくれた。それだけで、一気に全身がぽかぽかとしてくる。
そうやって二人で手を繋ぎながら、砂利道を進んでいく。
やがて目的の場所にたどり着いた。そこには五百木家之墓と文字の掘られたお墓がある。凪沙がやかんを傾けて墓石を洗っていく間、僕はお花をたむけて線香の準備をした。
一通り作業が終わると、僕と凪沙は並んでお墓の前にしゃがみ込む。
その間にも雪はどんどん強くなっていて、その結晶は絶え間なく僕たちに降りかかっていた。
僕たちは顔の前で、手を組む。その薬指には、お揃いの指輪がはめられていた。桜井さんはきっと気づいてくれるだろう。かつて僕たち二人を照らした光は、今もこの胸の中で輝き続けている。僕たちだけじゃない。それは多くの人の心を燃やし続けているのだ。そうして燃やされた炎は、まるでリレーのバトンのようにまた別の人の心を温めている。
結局、桜井さんの最後のCDは彼女が自殺してから二週間後にリリースされた。皮肉と言うべきか、それが桜井光史上最も売れたCDとなり、伝説として今も語り継がれている。
やがて僕たちは立ち上がり、桜井さんのお墓を後にした。歩いてきた砂利道を戻り、僕が凪沙からやかんを受け取って水道で洗い流す。
そのときだった。
厚い雲が二つに割れて、眩しい太陽が顔を覗かせる。途端に目の前がぱっと照らされたのだ。凪沙が横で顔を上げた。僕もつられて洗い終えたやかんを置き、空を見上げる。手をかざさなければ、目を開けていられないほどその光は強かった。
その輝きを見て、僕は学生時代の自分を思い出す。ずっと暗闇の中にいると思っていたけれど、周りにはたくさんの光があると気づいたあの時期。今でもそれを忘れてしまうことはあるけど、あの時に得た経験は確実に今を生きる力になっている。
やがて凪沙は満足げに頷いた。そして空を見上げるのを止め、歩き出す。僕も慌てて追い付き、彼女の手を取った。凪沙が僕の方を振り向いて、ふっと笑う。
僕の青春は光合成だった。
僕の青春は光合成だった 譜久村 火山 @kazan-hukumura
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