最終話 次の世界へ
アニードがやって来たのは事件から十日も経ってからだった。僕達はアニードから事の顛末を聞いた。
「ジュヌーンが自供したぜ。驚けよ、贋作の作成だが組織ぐるみだった。そうと知らなかったのは半分、残りの半分は何らかの形でそれに関わっていた。そして鑑定士のハムエーンを刺したのもジュヌーンだ。アシェ、お前の推理通りだったよ。贋作を告発しようとしていたサブマスターのナキボクロンは、恋人のハムエーンと一緒に証拠を固めていた。そのことに気づいていたジュヌーンは貫通ナイフのことを知って犯行を思いつき、辞典ごとハムエーンを刺し殺した。その時に宝石の呪いにやられなかったのは単純に宝石を見なかったからだろう」
アニードは驚けと言ったが、僕達は町の噂で聞いていた。町の中はこの噂で溢れている。
「ところがよ、例の宝石の呪いだ。ハムエーンが死んでいるのを最初に見つけたのはナキホクロンだったようだな。恐らくだがその時に犯人の手がかりを探そうとして宝石を見ちまったんだろう。そしてナキホクロンは宝石の力でおかしくなっちまったってわけだ。それまでは事件の関係者を密かに除名してギルドを生かそうとしていたが、なりふり構わず贋作事件を公表しようとした。慌てたのはジュヌーンだ。そこで、ナキホクロンの部屋にナイフと辞典を持ち込んだ上で、ナキホクロンを自殺に見せかけて殺し、ハムエーン殺しの犯人に仕立て上げようとした。ところがだ、殺したナキホクロンがミイラになり、ジュヌーンが宝石の呪いに囚われちまったってわけだ。まぁ宝石の呪いなかったらこの事件も贋作事件も闇に葬られていたかもな。感謝してるぜ」
アニードはそこまで言うと三人の顔を見た。
「おめぇら、その顔は噂で聞いていたか。だがよ」
アニードは勿体つけて言った。
「サブマスターのナキホクロンが蘇生に成功したことは知らねぇだろ」
えっ、本当なの。
蘇生は秘術というか教会の独占技術である。何が大変かというと、そもそも条件の整う死体がないことが問題だ。
寿命からほど遠く、致命傷がなく、新鮮で、精神が残っている。何より生きる意思があること。口では簡単に言えてもそれをクリアできることは滅多にない。
教会はそれでも奇跡を起こしたいために可能性があれば請け負ってくれる。今回はそれが成功したようだ。
「うちの若いのがよ。もしかしたらって持ち込んだんだ。そしたらよ見事に成功しちまった。教会は大喜びよ。奇跡を再現できたってな。もう少し回復したら俺達も今回の件の事情が聞けそうだしな」
アニードは笑顔でこの件が完全に片付いたら一杯飲もうと帰っていった。
僕はショーラとケッタを見た。二人とも笑顔になっている。
「贋作に振り回され、宝石の呪いで不幸を撒き散らしたと思っていたが、少しは救われる人がいて良かったな」
ケッタが言うが、ショーラは聞いていなかった。
「さぁ、準備して行くわよ。新たな宝を探しにね。次は西よ。地図屋から新しいの買ったの。今度のは凄いわ」
ウフフとショーラが言いながら歩き出した。僕はケッタと顔を見合わせると、ゆっくりと追いかけた。
異世界の推理〜あの宝石は君のもの〜 キハンバシミナミ @kihansenbashi
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