エピローグ

 気づいた時には、布団が半分だけめくられていて覚さんがいなかった。

「覚さん、どこ……」

 一織は、途端に不安に襲われて、覚さんの名前を何度も呼んだ。あのひとまで、自分から離れて行ったら。

「おはよう、一織」

「覚さん……」


 リビングに行くと、覚さんが優しいほほえみを浮かべて待っていた。パンの焼ける香ばしい匂い。テーブルには、二人分の朝食が並べられている。え……ここ、他に誰か住んでいたっけ。

「一織の分もあるよ。一緒に食べよう」

「え、これって、俺の……?」

 まさか、覚さんがここまでしてくれるなんて。一織の見開いた目から一粒涙が零れ落ちる。


「大丈夫?」

「うん……すごく、うれしい」

「なら、食べよ。いただきます」


 久しぶりに、食べた朝食。その味は、驚くほど優しかった。いつの間にか、一織の口元が緩んでいた。


「一織、来週もまた来なよ。待ってるから」

「うん……また来る、覚さん」

 一織はかすかに笑みを浮かべ、丘を下りて行った。七日後には覚さんの優しい笑顔が見られる。そう思うと、少しだけ家に帰るのも怖くなくなったかもしれない。


 祐の安心したようなほほえみが、一瞬だけ視界の端に見えた気がした。


fin.

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水晶のかけら Adeli @adeli

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