後悔 【Purple verbena 紫のバーベナ】

 別室にて、施設長とつばさ君のお母さんが話している間、つばさくんと私はいつもの図書エリアにて待つことになった。

 空は黒一色に染まり、窓ガラスはただ悲しげに欠けた月を浮かべている。

好奇心旺盛な本の虫はいつものように図鑑を読み漁るのではなく、泣き腫らした瞳でそんな暗闇を眺めているだけだ。

 私はただ何も言わずに、彼の隣にいた。大好きな本を破いたとはいえ、いまのつばさ君を叱る気持ちにはなれなかった。

 しばらくして、つばさ君は口を開いた。

「おばあちゃんにもよんでほしかったんだ」

 私は一瞬、理解することができず、少しの動揺を口から漏らすことしかできなかった。

 つばさくんは続ける。

「お父さんとお母さんが言ってたの、おばあちゃんはお空にいっちゃったんだって だからね、ひこうきにして、とばしてね、おばあちゃんにもね」

 必死に言葉を紡ぎだそうとするつばさ君をみて、私は言葉を失くしてしまい、代わりに涙だけが頬を伝った。

 それから数分がたち、やっと私が言葉を取り戻したところで、つばさくんはお母さんに呼ばれて帰っていった。

 カウンター上の、解かれた紙飛行機には、紫色のバーベナが描かれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る