遠い昔、確かに読んだはずなんだけども、断片的な記憶しか思い出せない。誰に聞いても知らないと言われて、結局何もわからず仕舞い……。そんな物語って、皆さんにもありませんか?
この小説に登場するトリト青年も、そんな記憶を持つ一人です。幼い頃に読んだ絵本の続きを知りたいがために、短編映画を制作し、絵本を知っている人を探し出そうとします。主人公ナナカさんは、そんなトリト青年の映画制作を手伝いますが、二人が本当に探しているものは、果たして……。
短編ながら、映画館に座って素敵な映像を見ているような、夢みたいなお話でした。そして、とってもお洒落! 群青色の夜空、旅をする少年と猫、菫ソースの魔法のクッキー、探し物をするトリト青年とナナカさん。ワードセンスもさることながら、一つ一つのシーンが美しく、激エモです。
甘くてふわふわ、キラキラした不思議な雰囲気の前半から、突然アクセルが入って、一気にラストまで連れて行ってくれる感覚も爽快でした。
ナナカさんに感じた前半の違和感が、後半で回収されていくのもスッキリです(なるほど、いろんな意味でSFだなと)。
キラキラ光る宝石を散りばめたような、素敵な文章でした。
もちろん、終始猫は無事ですので、猫好きの方も安心して読める小説ですよ!
(「甘いだけじゃない!? スイーツが登場する物語」4選/文=美雨音ハル)