episode.3 まるでオフロード!”そろばん”って何?


 なんのことを言ってるんだ? 今回は雪道の話をするんじゃないのか?


 タイトルを見てそう思った方もいると思うが、安心して欲しい。

 今回も雪道の話である。


「今日の道路はそろばんだ。最悪だ」

「除雪が下手で、そろばんになってる」


 などというように使う、道路の状態を指す比喩。実はこの手のたとえは他にも色々あるのだが、それはまた後日紹介することにしよう。







 ――ガタガタガタッ!ゴトゴトゴトッ!!


 通常ありえない走行音が車内に響く。念のため書いておくとここはオフロードなどではなく、一般道だ。


「わあああ。すっすっすっごいどっど道路ですね~~」


 後部座席にのせた後輩ちゃんが、走行音に負けじと声を張り上げて感想を言う。


「しゃべんないほうがいいよ。噛むよ」


 後輩ちゃんはふざけてる訳ではなく、吃音きつおんな訳でもなく、言葉を発すると本当にこうなるのだ。

 

 隣の隣の隣の市からはるばる遊びに来てくれた後輩ちゃんを、駅まで送り届ける道中。ちょっと車通りの少ない道を選んだらこうだ。(だって大通り混むんだもん!)

 

 ゴトッとかガタッとか、ゴンッとか、ありえない走行音が連続する、この道路―――俗に”そろばん”と呼ばれる道路である。 


 そろばんって、あのそろばん。計算する時に使う算盤そろばん。算盤の表面は横から見ると、そう、ボコボコだ。小さな山がたくさん突き出ているように見える。

 もうおわかりだろう。つまり、雪が固まって、一面が状態になった道路である。


 ”ボコボコっていっても、せいぜい砂利道みたいな感じじゃないの?”


 雪国に住んだことのない人はそう言うだろう。


 ――違う。ぜんっぜん違う。想像して欲しい。本当に算盤の玉と同じくらい鋭利な、こぶし大の突起が、無数に敷きつめられているのだ。ボルダリングの壁を走行してるようなものだ。


 この道路、当たり前だけど信じられないくらい揺れる。センターオブジアースでもそんなに揺れないぞってくらい揺れる。


 なんなんだろう。どうしてこうなるんだろう?


 ブルトーザーのタイヤの跡なのか、雪のつもり方なのか。

 原因はよく分からないが、雪道はかなり日常的にこうなってしまう。


 天気は晴れ。今日は一日大して雪が降らず、冬晴れの気持ちの良い日だった。

 が、道路はぜんぜん気持ちよくない。


 後輩ちゃんは上下左右に揺られ、天井に頭をぶつけながらも、無事駅に送り届けた。後輩ちゃんの住む地域は太平洋側だから、あまり雪が降らない(同じ県なのにふしぎだよね)。


 もう二度と冬に遊びに来てはくれないだろう。








【ゆきぐにマメ知識】

*スピード

 雪道は30キロ出せればいい方。法定速度なんて出したら死ぬ。10キロくらいしか出せない時もある。当然時間がかかったり、渋滞になることもあるので、夏よりも10分~20分は早く家を出なくてはならない。そもそも除雪しないと家から出られないこともあるので、雪国の朝は早い。






 


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