episode.6 春先の刺客!ブラックアイスバーンの恐怖
――あったかくなってきたなあ。
荒れ狂う2月を乗り越えて、3月中旬。少しずつ気温も上がり、道路の雪も解けて、黒く濡れた地面が見えてきている。
すりばちもそろばんも、つるつるのスケートリンクからも、これでようやく解放される!――――と安心してスピード出した車は地獄を見る事になる。実は、雪が解けて地面が見えてきた、そんな時こそ危ない。
有名なので、聞いたことがある人も多いだろう。
その名も、”ブラック・アイスバーン”
必殺技みたいな名前をしている、春先の刺客。実際、必殺技並の攻撃力のある道路である。
*
ひっくり返ってるぅ!?
環状線の大きな交差点。黒いミニバンが「コテンッ」と横倒しになっている。そのすぐ脇に、警察車両。
今日は雪が降らないみたいだし、朝イチで映画でも行くか~と出てみた
道路の状態は一見悪くない。雪はほとんど解け、黒い濡れた地面が見えている。他に車が止まっていないところを見ると単独事故だろう。
私はちらりと外気温を確かめる。
――0度。日中の気温は暖かくなってきたとはいえ、まだ朝晩は氷点下になることもある。
「ヤツか……」
ついにヤツが現れたか。これまで
この、雪が解けて濡れているように見える路面。実は薄く氷が張っている。見た目は昼間の氷が溶けて濡れた道路と変わらないだけに、タチが悪い。
どの雪道にも当てはまることだが、この道路を生き延びるポイントは2つ。「車間距離」と「はやめのブレーキ」である。
車間距離はちょっと広すぎるか?と思うぐらいでちょうどよい。前の車に何があっても回避できる距離を保つことが大切だ。
そしてブラックアイスバーンを起こしている路面は、想像以上に停まらない。信号で停まろうと、いつもの感覚でブレーキを踏むと、横断歩道を軽く越えてしまう。一説には、普通の道路より制動距離が6倍も伸びるらしい。
そして停まらないからといって強くブレーキを踏むと――さっきのミニバンみたいになるという訳だ。
わたしは幸い、まだこのブラックアイスバーンで恐怖体験をしたことはない。せいぜい停止線からはみ出しちゃった、くらいである。ただ、母の運転する車が昔、半回転して後の車とコンニチハしていた(幸い衝突は免れ車も母も無事)。後ろの車が車間距離を取っていなかったら――と考えると恐ろしい。
映画1本を見に行くにも命がけ。雪が完全に解けきるまで、油断はできない。
でも――。
わたしはフロントガラス越しに冷気に澄み切った青い空を見上げる。
ラスボスが現れたということは、もう少しだ。
もう少しで、長かった冬が終わる。
待ちわびた、春の気配がすぐそこまで来ていた。
―――*End*――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます