episode.2 脱出不可能!蟻地獄
ぎゅっぎゅっぎゅ。
しゃりしゃりしゃり。
雪を踏みしめた時の感触は様々だ。ぎゅっとなるのは雪玉を作りやすい、適度に水分を含んだ雪。しゃりっというのはつぶの大きい氷が多い、かき氷みたいな雪。
では、ここで問題です。これはどんな雪でしょう?
ズズッ、ズズッ、ズズッ。
正解は―――――雪国ドライバーが最も恐れ、嫌う雪。
*
冷凍庫にいるのでは?と思う、ひりついた寒さ。吐く息が一瞬で凍りつく。実際、気温は冷凍庫よりも低かったりする。
12月も下旬、この頃道路はもう完全に雪で固まっている。これから春が来るまで、コンクリートの地面が見えることは無い。
――その日の道路のコンディションはどうか?
雪国に生きていれば、雪を踏んだ時の感触で嫌でも分かるようになる。
「うん、これはアカンやつだ」
朝、玄関を開けて雪を踏みしめた瞬間、全てを察する。
ズズッ…、ズズッ…
この、踏みしめた雪が固まらず、横に流れていくような感じ。そう、例えるのなら、砂浜を歩いている感覚に近い。もともとの雪質や気温の関係で、既に降り積もった雪がこうなる時がある。これはタイヤの空転――スタックを起こしやすい、タチの悪い雪だ。
私は後の荷台を開けて、スコップがあることを確認する。装備よし。暖機運転よし。あとは夜のうちに道路が
通りに出た瞬間広がる、白い砂浜。今日は無事職場にたどりつけるだろうか。
ぐぉんぐぉんぐぉん。
上下左右に大きくうねりながら、かろうじて進んで行く。ハンドルが取られてまっすぐ進めない。この振動、酔いやすい人は1分でグロッキーになるだろう。
まるで砂場で自転車に乗ってるような感覚。頑張って進んでも、進みたい方向に進んで行かない、あの感じ(砂場で自転車のったことないけど)。
そして、恐ろしいのがみぞだ。
雪の積もった道路は、
きゅるきゅるきゅる~~
案の定、大通りへ抜ける手前で大きなトラックがスタックしている。
「ひぃ……」
何度かアクセルをめいいっぱい踏んで、脱出を試みるが、上手くいっていない。溝にはまって、虚しく空回っている。
助手席の人が、寒い中外に出て、電話をかけている。きっとJAFを呼んでいるのだろう。
―――ああ、かわいそう。
心底同情するが、わたしにはどうすることもできない。ちょっとタイミングが違ったらあのトラックはわたしだった。トラックを追い越しながら、あの運転手さんが一刻も早く脱出できることを祈る。
【ゆきぐにマメ知識】
*
氷点下になる寒い日は、エンジンをかけてすぐに車を動かすことができない。車を動かす5分くらい前からエンジンをかけて、暖めておく必要がある(アイドリング)。暖めないとワイパーや窓も凍って動かない。無理に動かすと壊れる。あと単純に車内が寒い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます