episode.2 脱出不可能!蟻地獄


 ぎゅっぎゅっぎゅ。

 しゃりしゃりしゃり。

 

 雪を踏みしめた時の感触は様々だ。ぎゅっとなるのは雪玉を作りやすい、適度に水分を含んだ雪。しゃりっというのはつぶの大きい氷が多い、かき氷みたいな雪。


 では、ここで問題です。これはどんな雪でしょう?


 ズズッ、ズズッ、ズズッ。


 正解は―――――雪国ドライバーが最も恐れ、嫌う雪。







 冷凍庫にいるのでは?と思う、ひりついた寒さ。吐く息が一瞬で凍りつく。実際、気温は冷凍庫よりも低かったりする。

 12月も下旬、この頃道路はもう完全に雪で固まっている。これから春が来るまで、コンクリートの地面が見えることは無い。

 

 ――その日の道路のコンディションはどうか?


 雪国に生きていれば、雪を踏んだ時の感触で嫌でも分かるようになる。


「うん、これはアカンやつだ」

 

 朝、玄関を開けて雪を踏みしめた瞬間、全てを察する。


 ズズッ…、ズズッ…

 

 この、踏みしめた雪が固まらず、横に流れていくような感じ。そう、例えるのなら、砂浜を歩いている感覚に近い。もともとの雪質や気温の関係で、既に降り積もった雪がこうなる時がある。これはタイヤの空転――スタックを起こしやすい、タチの悪い雪だ。

 


 私は後の荷台を開けて、スコップがあることを確認する。装備よし。暖機運転よし。

 あとは夜のうちに道路が排雪はいせつされていることを願っ……されてなーい。


 通りに出た瞬間広がる、白い砂浜。今日は無事職場にたどりつけるだろうか。


 ぐぉんぐぉんぐぉん。


 上下左右に大きくうねりながら、かろうじて進んで行く。ハンドルが取られてまっすぐ進めない。この振動、酔いやすい人は1分でグロッキーになるだろう。

 

 まるで砂場で自転車に乗ってるような感覚。頑張って進んでも、進みたい方向に進んで行かない、あの感じ(砂場で自転車のったことないけどね)。


 そして、恐ろしいのがだ。

 雪の積もった道路は、みぞが突然現れる。タイヤのわだちとか、マンホールのへこみとか。ちょっと深い所に落ちたら最後。今日の雪だと脱出不可能だろう。

 

 きゅるきゅるきゅる~~

 

 案の定、大通りへ抜ける手前で大きなトラックがスタックしている。


「ひぃ……」


 何度かアクセルをめいいっぱい踏んで、脱出を試みるが、上手くいっていない。溝にはまって、虚しく空回っている。

 助手席の人が、寒い中外に出て、電話をかけている。きっとJAFを呼んでいるのだろう。

 

 ―――ああ、かわいそう。

 心底同情するが、わたしにはどうすることもできない。ちょっとタイミングが違ったらあのトラックはわたしだった。トラックを追い越しながら、あの運転手さんが一刻も早く脱出できることを祈る。







【ゆきぐにマメ知識】

暖機運転だんきうんてん

 氷点下になる寒い日は、エンジンをかけてすぐに車を動かすことができない。車を動かす5分くらい前からエンジンをかけて、暖めておく必要がある(アイドリング)。暖めないとワイパーや窓も凍って動かない。無理に動かすと壊れる。あと単純に車内が寒い。

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