episode.4 接触注意!すり鉢の恐怖!



 悪路を例えた言葉シリーズ、第二弾。

 前回は”そろばん”――――今回は”すりばち”である。胡麻などをときに使う、あのすり鉢のことだ。

 ここまで「ゆきぐにドライブ!」を読んでくれたみなさんなら、なんとなくどんな道路か察しがつくのではなかろうか。


 ちなみにわたしは、そろばん道路よりもこの”すり鉢”道路の方が怖い。

 




 ――ズッ。


 AM7:20。家の玄関を出た瞬間、新年早々に足を滑らせる。

 夜から早朝にかけて凍った雪が、日が昇って溶け始め、スケートリンクになっているのだ。

「…………」

 幸先さいさきがよくないが、気を取り直してあらかじめエンジンをかけておいた車に乗り込む。

 正月休み明けの初出勤。色々と覚悟を決めて出てきたのに、早くも帰りたい。





「……まじか」


 ここを行くのか。

 目の前に広がる、車線が半減した道路を見て絶句する。

 家を出てすぐの、住宅街の小路。距離にして数百メートルほどしかない道路だが、ここを抜けないと幹線道路に出られない(=職場にも行けない)。狭いけれど、地味にいつも交通量の多い通り。そんな道があなたの家の周りにもあるだろう。

 

 もともと道幅が広くないこの通り、雪が降ると恐ろしいことになる。本来対面通行のはずが、車1・5台分しか無くなっている。それもそのはず、道路の両脇が雪でかっちかちに固まり、道路の縁に向かって緩やかにカーブを描きながら高くなっているのだ。


 横から見た形は、まさに――――”すり鉢”。

 スケートボード競技で空中一回転する時に使う、お椀状のコースのようである。


 車が走っていいコースではないことは確かだ。 


 向こう側から来る車が、30度くらい傾きながらヨロヨロと進んでくる。悪いことに路面は凍結。つるつるすべすべのすり鉢型道路である。ちょっとアクセル加減を間違えると横転すること間違いなし。

 

 ――よくもまあ、こんなに綺麗にすり鉢型になるものだ。

 これからここを通過する恐怖を忘れて感心してしまう。


 そして信じ難いことに、なんとここは通学路の一部。今は小中学校ともに冬休み中なので、歩行者が少ないのが幸いだ。


 大きな車やトラックはすれ違えないから、どちらかが道を譲る。(この辺の空気の読み合いに関してはさすが雪国ドライバー。みんな上手い) 道に入る手前で止まって車を待ったり、人の家の敷地にちょっと入って避けたり。パッシングやクラクションを駆使して譲り合う。


 すれ違う時は、緊迫の一瞬だ。車と車の距離が10㎝を切るときもある(ああ怖い)。きわどい時はお互いにミラーを折りたたみ、ナメクジもびっくりするようなスピードですれ違う。歩行者がいれば、歩行者にもにも気を遣わなければいけない。

 

 みんな、神経をすり減らしながら運転しているのだ。



 ――どうでもいいけど”すりばち”ってポケ〇ンの技名にありそうだな。

 

 現実逃避気味のわたしは、30度傾きながら、そんなことを思った。








【ゆきぐにマメ知識】

流雪溝りゅうせつこう

 雪国にしかない物といえばこれ。道路沿いにある、雪を流すために作られた水路のこと。側溝のような見た目だが、川から引いた水がごんごん流れている。夏場や普段は蓋がしてあるが、使いたいときに自分で開けて雪を捨てることができる。

 みんなここを開けっ放しにして雪かきをしているので、ボーッと歩いてると蓋が開いてる流雪溝に落ちる。

 使用料は自治体によって異なるが、一冬1000~3000円くらい。





 ☆★予告★☆  次回、ついに最恐道路現る!?




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