最終話 逮捕から更生へ
薬物の高揚感を借りて前向きさを保ちつつも、撮影前の1、2週間はしっかり薬を抜くようにしていた。仕事を終えると和馬に嫌われたくないのもあり、薬に手を出す。秘密の共有と依存の中の錯覚。鳴海は和馬を本気で好きだと感じていた。
事件が起きた。和馬の幻覚が激しくなり、更生施設に送られた。不自由なく手に入っていた薬物が手に入らない。鳴海は気づいた。私が欲していたのは和馬ではなく、薬だったのだ、と。蛇の道は蛇。そこからは自分で薬を買い求めるようになった。
AVの撮影は数日だったが、報酬は束になるくらいの金額が貰えていた。時間とお金を持て余し、服従する側から服従する側に回る事で心のバランスを取るように夜になるとホストクラブを飲み歩き、薬物を手に入れる生活。お金は寂しい自分を忘れさせ、楽しい時間を与えてくれる。
ミスキャンパスを取った時のように夜の世界では持て囃される。夢の中に自分を置くことで未来への不安を打ち消していた。
ある時、訳もなくプラスチックの板にカッターナイフで彫刻をし始めた。気けば7時間が経っていた。薬は集中力を高めるんだ。そう思うと薬への罪悪感は更に薄れ、ポジティブ思考を保つために薬への依存頻度は高まっていった。
月1~2回の頻度がは増え、いつしかタバコのような感覚で、毎日使うようになっていた。「このままじゃだめだ、やめよう」と、1、2週間は耐えるが「切れ目」との離脱症状の時にまた手を出してしまう。自己嫌悪が襲い掛かる。もう、薬をやりすぎて死んでもいいやと鳴海は、思うようになっていた。
遂に警察の手が鳴海に伸び、覚醒剤取締法違反で逮捕される。逮捕後、46日間を拘置所で過ごし、懲役2年、執行猶予3年の判決を鳴海は、受けた。
拘置所でのきちんと三食を食べる規則正しい生活で、健康状態はかなり回復したが、体の中に残っている薬物による離脱症状により、鳴海は苦しんだ。離脱症状は20日目位が一番つらい。拘留期間が長くなければ再犯の可能性もあった。それ程、薬物依存を断ち切るのは難しい。
鳴海はキャバクラで働き始めた。薬物の誘惑に向き合いながら。鳴海が働いているのを知った不届きな者は、わざわざお店に来て、「一緒にやろうよ」と誘ってくることもある。不安との闘い。不安が大きく成れば薬物への欲望が強くなってしまう。
不安に襲われたら酒で発散させたり、睡眠薬に頼る。睡眠薬を飲みすぎて精神が不安定になることもある。鳴海には、欲望に負けそうになったり、気分が落ちたりして連絡するとすぐに「会おう」と言って話を聞いてくれる人物を得た。それでも最後は鳴海自身の罪への贖罪を積み重ねるしかない。
誰かの期待に応え、理想の自分であるために無理をする閉塞された反動から、万引きや違法な薬から得るスリルを解放感と勘違いしてしまう。心にストレスを溜めない。その為に、遠からず近からずの距離感を保てる人物を得ることは大切だ。同情してくれる人物より、悪役になっても冷静に現実を見て叱咤してくれる人物を億劫がらず大切にすることだ。
鳴海は今後をこう語った。清楚、才女が求められ、黒髪に白い服が求められたミスキャンパス。今は、自分の好きな恰好ができ、自分らしさを取り戻したと思える。AV女優と言う天職に更生した、いや、努力する自分をお見せできる、それが今の目標だと前を向き生きていくと。その決意が揺るぎないものだと願うしかなかった。
事件シリーズ アソコに白い粉 龍玄 @amuro117ryugen
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