お菓子なチェックメイト



「なになに?……流行りの有名店の限定クッキー? お取り寄せか? お前、そんなに甘いもの好きだったのか?」


 会社の自販機の前のソファーに腰を下ろしてスマホを見ていると、いつの間にか後ろに同じ部署の先輩が来ていた。

 僕はサッとスマホの画面を隠し、ネクタイを緩めながらニヤニヤ笑っている先輩を睨んだ。


「違います。これは友達の誕生日プレゼンにしようと思ってたんです。」


 ガコンと自販機の取り出し口に落ちてきた缶コーヒーに手を伸ばして、「どんな友達?」と先輩が聞いてくるので、僕はザッと説明した。



 僕には幼馴染で同い年の女の子の友人が居る。

 幼稚園からの付き合いで、二十代半ばになった今も連絡を取り合っているのだから、もうこれは腐れ縁と言っていいだろう。


 彼女は、まあ、ごく普通の子なのだが、一点だけ突き抜けた特徴があって……

 とにかく食いしん坊なのだ。

 美味しいものは何でも好きだし、美味しくなくても食べ物なら大体好きだ。

 一日の大半を食べ物の事を考えて生きていると言っても過言ではない。

 あまりに食べ物に夢中になっているせいか、この歳まで独り身のままだ。


 かく言う僕も、引きこもり……いや、かなりのインドア派でややコミュ症の所もあって、恋人が出来た試しがなかった。

 おかげで、と言うべきか、僕はその食いしん坊の幼馴染と、ずっと、友人として付き合いが続いていた。


 まあ、正直、気は合う。

 幼馴染で気心は知れているから、一緒に居ても疲れないし、むしろ楽しい。

 ぼっち体質の僕にとっては、これからもいい関係を続けておきたい貴重な友人だった。


 そんな訳で、こうして今も誕生日プレゼントを選んでいた訳だ。



「でも、なんで誕生日プレゼントがお菓子なんだ?」

「お菓子が欲しいって本人に言われたんですよ。」

「そう言われたにしても……普通女の子へのプレゼントには、プラスアルファでアクセサリー類は必須だろう?」

「そういうものなんですか?」


 先輩はコーヒーを飲みながら隣に座って、勝手に僕のスマホを操作し宝飾店のHPを出した。



 その約一ヶ月後、僕は例の幼馴染の女の子と一緒に来たレストランの席で、驚きで目を見開いていた。


「……だ、だから、私もいろいろ考えたけど……OKしてあげてもいいよって言ってるの。」


「……あの指輪、プロポーズなんでしょう?」


 (先輩!)と僕は心の中で叫びながら、目の前の彼女に「嬉しいよ」と答えた。

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てのひらかたり 綾里悠 @yu-ayasato

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