第4話 ワード当てゲーム

 結衣に勝負を持ちかけた俺は内容説明する。


「勝負はワード当てゲームだ!俺が勝てば俺の言う事を一つ聞いてもらう。

 お前が勝てばどこへでも行こうじゃないか!

 相手が決めたキーワードを10分以内に当てるだけのゲームだ」


 俺の作ったゲームで俺の優位に進める。

 負ければ火星だ。慎重に行かねば。


「面白そうね♪」


 どうやら上手く乗って来てくれたようだ。


「紙にキーワードを書く。そして隠す。

 相手は質問をし、自分はイエスか、ノーか、微妙かで答える。

 嘘は禁止だ。バレた時点-2点だな。

 10分以内で当てられたら、当てた相手が1点。当てられた方は0点だ。

 これを1回ずつやって同点ならサドンデスだ」


「キーワードの紙は殴って奪っていいの?」


 こいつの頭はバグってるのか?


「いい訳ないだろ。どうゆう尺度で言ってやがる」


 こいつの物差しはイカれている。

 長さを測るのに分度器でも使ってそうだ。


「キーワードは1単語、お互いがその目で見た事のあるのに限る。

 テレビで見たものとかも直接、目で見ていないからアウトだ。

 相手が知らない単語もなしだ。ルールを破れば-2点だな」


「相手を喋れなくするのはあり?」


 こいつは長さを測るのに金づちを使いそうだ・・・。

 もう測る気ないだろ・・・。


「お互いに一切の接触を禁ずる!あと間接的な攻撃もアウトだ!」


 こいつは風圧でも攻撃出来そうだからな・・・。 

 これで身の安全は確保できる・・・よな?

 か○はめ波とか打たないだろか?気も禁止するべきだったか?


「目で見たものはオッケーなのね?」


 割と普通の質問が返って来た。

 ほんとこいつは頭が悪い訳ではない。頭がおかしいのだ。


「あぁ、その通りだ」


・・・


 こうしてゲームが始まった。

 俺は紙にキーワードを書き、隠す。

 熟考した自信作だ。しかし勝てるとは思っていない。

 こいつは多分、勘で適当な事を言っても答えを当てる。


「スマホのタイマーで10分をセットした。ではスタートだ!」


 さてどうなるか・・・


「もう答えていいの?」


 結衣が言う。


「まずは質問だろう?」


 まさか・・・


「答えは『夕陽』ね。なかなかオシャレなワード選ぶじゃない♪見直したわ」


 は?エスパーなの?このゲーム意味なくない?開始10秒の瞬殺・・・

 読心術か?それとも脳派を読み取ったのか?

 こいつには隠し事も意味を成さないのか!?

 それは由々しき事態だぞ?


「なぜ・・・分かった?」


 何としても真実を聞き出さなければ・・・。


「ん?眼球に紙、映ってたし。目で見たものはオッケーなんでしょ?」


 は?3mは離れてるこの状態で、3cm程の文字を眼球から知る・・・?

 アフリカ部族の視力11.0を軽く凌駕しているだろ・・・。  

 しかも事前に巧みに質問して俺に気づかせず言質も取られていた・・・


 完敗だ・・・


 否!まだ負けていない!次奴のワードを当てればいいのだ!

 そして次は目をつぶって書く。

 更に骨格の動きとかでバレそうだから書き順も出鱈目でたらめにしよう。

 俺の認識が甘かった。まだコイツを人だと思ったのが敗因だ。

 俺は後悔せず反省し前を向く!


「私の1点リードね♪」


 結衣はそう言い次のゲームの準備をする。

 このゲームの本質はカテゴリー分けによる限定だ。


「オッケー。スタートするわね♪」


 始まったか。10分で当てればいいのだ。実は必勝パターンがある。

 まずは文字数からだな。


「それは1文字か?」


 まずはこれを繰り返す。


「ノー。それずるくない?」


 ルール違反はしていない。俺は順に聞き5文字と把握する。


「それは漢字か?」


「ノー」


「頭文字は『あ行』か?」


「ノー。あんたそれずるいでしょ!」


 これを繰り返していけばいずれ分かる。

 10分あればこれで断定出来るだろう。


 しかし・・・『わ行』までいっても答えはノー・・・


 結衣がニヤリと笑う。

 まずい・・・こいつは何か策を講じたのだ。

 漢字ではない。しかも五十音の頭文字ではない?

 俺の知っている単語・・・言語・・・


「英語か!」


「イエスね」


 結衣ば少し悔しそうにする。

 随分時間を使ってしまった。

 俺はHが頭文字な事と動物で街中で見かけない事まで聞き出した。


 ここで俺は確信する。

 そして10分が経過した。


「私の勝ちね!正解は『Horse』馬よ♪」


 確かにこいつは俺の戦法に気付き対策を打ち勝利した。

 が!俺はずっと前から負けている!社会と言うゲームに!!

 こいつの敗因は・・・俺のそれをあなどった事だ。


「いや。勝負は俺の勝ちだ」


「はぁ?答えられなかったんだから私の+1点で勝ちでしょ?」


・・・


「俺は馬を見たことがない」


・・・・・


 勝負に勝った俺は結衣への命令を考えていた。

 やはり縁を切るのがベストか?


「仕方ないけど負けは負けね・・・言う事をきくわ」


 どうした?珍しくしおらしいじゃないか。

 少し罪悪感が湧くがこの千載一遇のチャンスを逃す訳には行かない。

 結衣の顔色が一層、暗く沈む。


 するとその時・・・


 俺の靴紐が切れる。黒猫が大群で横切る。

 大量のカラスが寄ってくる。

 太陽がかげり俺の場所だけに雨が降る。

 

 俺はこんな脅しには屈しない!


「俺のお前へのお願いは・・・」


 結衣の目に涙が浮かぶ。


 黒猫が聞いた事の無い鳴き声で鳴く。

『ギルティ〜!』

 カラスが鳴く。

『curse《呪い》!curse!curse!』


 俺は屈しない・・・


 猫が喋る。

『泣かせた、殺す』

 もう鳴き声ですら無い。カラスも喋る。

『殺す!殺す!殺す!』


 俺は・・・


 その時井戸から爪の剥げた血だらけの手が出てくる。

 やめろその井戸は文字通り、俺の生命線だ!


 そして俺のすぐ横に落雷が落ちる。


 ・・・


 あかん。死んでしまう・・・。


「もう少し優しく殴れ・・・以上だ」


 臆病者と笑わば笑え。俺は延命を選ぶよ・・・。


 すると結衣の顔が見る見るうちに明るくなる。

 先程までの不吉の前兆は綺麗さっぱり消えていた。


「分かったわ!これからは優しく殴るわね♪」


 いや殴るなよ・・・。

 結衣はとても上機嫌だ。


「じゃあ行くわよ!早く支度しなさい♪」


 もう好きにしてくれ。

 俺は投げやりに思う。

 結衣は本当に楽しそうだ。


「で、どこに行くんだ?」


 もうどこでもいいよ。


「動物園♪馬を見に行くわよ!楽しみね♪」


 こいつは決して悪い奴ではない・・・ただヤバい奴なのだ・・・。



 馬かぁ・・・ちょっと楽しみだ。

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出ない杭は打たれない? フィガレット @figaret

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