第3話 インスタ投稿、火星なう

「インスタに写真を載せたいから協力しなさい♪」


 相変わらずの不法侵入。

 折角インターホンは直したのに・・・。

 正確には押すと電気が流れる様に魔改造してやったのに。

 俺の労力を返せ。


「何で俺が協力する必要がある?と言うか載せる必要があるのか?」


 承認欲求か?

 なら市役所に行って住民票でも貰えばいい。

 ちゃんと名前が書いてあるぞ?

 ん?あるよな?こいつの場合、人かどうかも怪しいが・・・。


「友達に彼氏がいないと思われたくないのよ!

 この際あんたでいいから協力しなさい」


 何をそんなに必死になっているのか・・・。

 俺が簡単な解決方法を教えてやろう。

 友達がいなければいいのだ。

 まぁこいつに言っても分からないだろうな。


「無理だ。俺の命を狙う各国のエージェントに情報を漏らす訳にはいかない」

 

 俺は馬鹿にして適当な事を言う。


「馬鹿な事言ってないで行くわよ!支度をしなさい」


 馬鹿に馬鹿って言われた。いやこいつは馬鹿力だが馬鹿ではない。

 だからタチが悪い。

 ん?いま行くって言ったか?


「どこかに行くのか?達者で暮らせよ?」


「あんたも行くに決まっているでしょ?早くしなさい」


 決まっているのかぁ・・・。運命というやつか?俺はそんなものは信じない。

 自分の道は自分で切り開く!


「俺はここから離れられん。パピーに定時連絡が取れなくなる」


 これならどうだ!?

 理由としては充分だ。

 父をパピーと呼ぶ事でファザコンっぷりまで表現した!

 完璧だ。


「仕方ないから私の携帯でテザリングしてあげるわよ。これで大丈夫ね♪」


 その手があったか・・・。


「ちょっと待て。そもそも写真を撮るのに何故出かける必要がある?」


 ここで撮ればいいはずだ。


「背景が大事なのよ。デートっぽい場所じゃないと♪」


 誰も見てないだろ。そんなとこ。


「背景なら俺が合成してやる。俺の画像編集技術はN○SAをも凌駕する。

 どんな背景でも作り出してやろう。どこがいい?火星か?」


 自分の星に帰ってくれ。


「火星にデートとかロマンチックね♪やるじゃない。でも行くわよ♪」


 ダメだ。話が通じない。


「キャンユースピークジャパニーズ?」


 ダメ元で行ってみる。


「アクセントと発音がおかしいわね。あと頭もおかしいわ」


 ダメ出しされた。頭の事はこいつにだけは言われたくなかった。

 こいつを納得させるのはもう無理だ。

 ならばいっそ利用する!


 選択肢が無いなら増やせばいい。

 勝負事にしてあわよくばこちらの要求を飲ませる!

 人生の高等テクニックだ。

 

 問題は何で勝負するかだ。まともにやって勝てる訳がない。

 戦力差は蟻と象ほどあると考えよう。

 いや、まだ甘い!

 蟻と孫○空くらいの認識は必要だ。


 いっそジャンケン等の運の要素に賭けるか?

 いやダメだ。こいつは神に愛されている。溺愛されている。

 神はこいつに激甘だ。

 ヴェル○ースオリジナルの100万倍甘い。

 きっと特別な存在なのだ。


 以前勝負した時、イカサマで両面表のコインを投げたら空中で粉々になり

 その破片が地面に「ウラ」の文字を描いた。


 その時、俺は確信した。

 こいつと関わってはいけなかったのだと。

 だがこの千載一遇のチャンスを逃してはいけない。


 俺は必死で考えた。


 無理だ・・・。

 勝てる気がしない。こいつはイカサマすらも粉砕する。


 そうだ!逆転の発想だ!負けた方が勝ちにすれば良い!

 俺はついに活路を見出した。 


 しかも俺の作った俺が負けるはずのないゲームで勝負だ。

 あえて俺の圧倒的に有利な勝負にする!

 それでも奴は勝つ!

 神をも騙す!俺は運命をねじ伏せる!


「なにさっきから黙りこくってんのよ?行くわよ」


 結衣は俺の首根っこを捕まえて片手で軽く持ち上げる。

 おかしい。なにがおかしいかって?

 物理法則がおかしい。


 無料の演算システムでももう少しリアルな動きをする。

 どう考えても俺の方が体積が大きい。

 こいつの重心は体の外にあるのか?


 せめて世界のことわりには従って欲しい。

 じゃないとこいつが神だぞ?いやだ崇めたくない。

 否!まだ、こいつの重量密度が激しく高い可能性が微レ存!

 こいつは超合金で出来ているのか?


「お前、体重いくつだ?」


 殴られた。うん。今のは俺が悪いな。


「勝負をしよう!お前が勝てばどこへでも行こうじゃないか!」


 どうせ選択肢はないのだ。ならばいっそ全ベットだ!


「へぇ、まだ懲りてなかったのね♪いいわよ」


 結衣は不敵に、そして可愛く笑う。


 俺はそれが世界一怖いよ・・・。

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