06  近衛兵であり老兵

 サイレンの音で我に返り、慌てて格納庫へと飛び込んだ。

 が、そこでリアは専用のパイロットスーツを着ていないことに気づき、思わず舌打ちをして、それを聞いた整備兵が、明日俺たちの首はなくなるのかと思い、身震いした。

「雷撃の出撃は⁉」

「まだ整備は終わってません‼高周波ベルトの損耗が激しすぎて修理すらできそうにないです‼それにひめさ……リア少佐もパイロットスーツを着てないでしょ⁉」

 パイロットスーツは低空飛行型戦闘機が高速で移動する際に感じる圧迫やそれによって生じる血圧の上昇を最小限に防ぐために絶対に必要だ。

 また、パイロットがどのような環境下に置かれても問題なく本領発揮できるよう、独自の補助装置を取り付けられている。

 事前に設定した温度を維持する体温自動調節機能や、万が一腕や足などが破損し、動けなくなった時に自動的に基地にへ帰る救済型帰還機能など、できる限り生存率を上げる機能が追加されている。

 また舌打ちを、しようとしてもらえた。

 今この状態なのは仕方がない、出撃をする人たちの武運を祈ることしか自分にはできない。

 やはり自分は無力だ。



「はあ。どうしてすぐ自分を責めるのでしょうか?」

 別室に待機させられて一人、格納庫にあるからして一人、嘆息していた。

 まあ、仕方ないのだろうが……。

 軍人になっているとはいえ、まだ子供だ。

 しかも王族だ。

 自らが原因だと、自分自身が疫病神、あるいは幸運を呼ぶものであると、自負し、満足感に浸る、くだらない偽善行為。

 今更、悲劇ぶる姿をとがめる気もない。

 今まで、そういう輩に何度も出会ってきて、とがめても無意味だと散々学ばされたから。

 咎めれば、哀れみの視線を向け、問うてくる。

 ーーー君は人の心がないのか?ーーー

「面倒くさいですねぇ......」




「こちらザンプ。」

 どこめでも暗い、深淵の夜という闇の中、老兵アスタクは額から滲み出てくる汗を拭った。

 もう六十を超えるが、舐められないと髭を剃り、髪を黒く染め上げた黒目の老人。

 帝国から支給された、黒いパイロットスーツの上から右腕に黄色い腕章をつけているのは、帝国の古くから仕える近衛兵の証だ。

 彼の駆るのは、時代遅れの多脚戦車フェルドレス

 六脚のガッチリと長い脚を備え、背部に六連式ミサイルポッドを左右、中央に一三〇ミリライフル砲を装備。

 伏撃を主に行うことを想定し、機体が低く、脚部に安定性を高めるためにスパイクを追加装備。

 戦場が変わっても隠れられるように、光学迷彩(透明になるもの)を用いた装甲を持つ。

 陸軍の多くを占める地上飛行型戦闘機ランドクラフトは素早く動く事が出来る反面、すぐ止まることが難しく、地形によっては運用が出来ない。

 伏撃を主に行うなら、あらゆる地形にも対応ができるフェルドレスが適していると、軍事研究員のつけた結論だった。

 まあ.......。

 機動戦が基本となった現代ではフェルドレスよりランドクラフトの方が速く、脚部をつけるが故に接地圧やら構造やらといった問題にも困らずに済むから、だろうが.......。

 不意に、ガザりと耳障りな無線音が耳をたたいた。

「カラップよりザンプヘ。敵の主力がそちらに向かっている。迎撃を準備しろ。」

 どうやら敵の主力が向かってきたらしい。

 了解、と返し、視界いっぱいに映し出されるスクリーンを睨みつけた。

 操縦桿につけられたライフル砲のトリガーであるスイッチに指がかかる。

 冷却系の駆動音のみが内部で響き渡る。

 十秒、二十秒、三十秒、……五十秒。

 不意に黒い影が目の前に躍り出る。

 実に数千機にも上る子機を従え、

「なッ―――⁉」

 カマキリのような腕を持ち、恐竜のような何かが見えないはずの老兵の駆る機体を睥睨していた。


















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閃光のサンダーバード 牙崎鈴 @akihiro1306

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