悲しくて苦しくても決して後悔はしない。貴女と歩んだ時間が愛おしいから…

 昨日に似た日が、今日も明日も始まってしまう。変わり映えのしない日々に、響はある少女と出会う。それは、駅のホームで電車を待っている時に、起こった出来事だった。

 謎の多い少女——。冬村海月と大橋響のひと夏の恋物語と、それを支える仲間達(静香と拓馬)の友情の物語。

 プロローグにて、驚きの展開が始まって行くが、実は過去を振り返るような作風で物語は動いていく——。



「私はくらげになりたい……」と言った海月。そして彼女の本心は? 彼女は自分の望む、くらげになれたのだろうか?……。

 誰にも話せない海月の置かれた立場。読む事に苦しさが伝わってきます。
 抗える事の出来ない苦しみと葛藤。絶望の中で見たものは一握りの希望だった。
 揺れる淡い恋心と現実の厳しさ。喪失感から前を向く救いの手は来るのだろうか。

 切なくも儚く、それでいて透明感のある美しく洗礼された文章は、読者を物語に一気に引き込んでいきます。背景描写も心理描写も素晴らしく、まるで映像を観ているかのようです。

 どうしても救われない運命に抗いながらも、救いを求める彼等の思いは、読む者を捉えて離さないでしょう。



 泣きたい夜に、読みたいこの物語——。読めば必ず、心が震えます。



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