第3話 変態に至る病



「ゆ、ゆうちゃん……ま、待ってください」


「悪い、待たない。ここまで来たら、もう待てないのは紬衣ゆえだって分かるだろ? ほら、目を開けて。これからナカに挿れるモノを、ちゃんと見て?」


「えっ……あ、嘘。こ、怖い。ム、ムリ。悠ちゃん、無理です。そ、そんなの絶対入らない」


「……大丈夫。ちゃんと入るようになってるから。な、紬衣ゆえ? 力を抜いて? ほら、二人で一緒に選んだだろ? シリコンの『クリア』と『ピンク』があったけど使ってみるなら可愛い色のが良いって紬衣ゆえが言ったんだから。なあ、ほら。全部挿れられるように自分の手で大きく開いて俺に見せて」


「ぃやっ、ダメ……そっ、そんなの恥ずかし……や、イヤぁ」


紬衣ゆえ。見てるの俺だけだから、大丈夫」


「やッ。で、出来ない、出来ないから、お願い……やっぱり……ゆ、ゆうちゃんの指で直接……さ、触ってシテください」


「っえ…………指、で?」


「だ、だって……器具ソレを見ちゃったら……ゆうちゃんの指の方が怖くナイか、ら?」


「……ッな、紬衣ゆえ? 自分が言ってること分かってる?」


「わ、分かってます。分かってるけど……ハジメテの場合は挿れた時に異物感や違和感があるっていうのも知ってますし指だと爪で傷が付いたりバイ菌があるかもとかも。

 で、でも……ゆ、悠ちゃんの指で……や、優しく開いて挿れてくれるならきっと我慢できるかなって」


「うっ…………あ、ヤバい……もう限界」


「ふえっ?! 限界? な、ナニが? あっ、ゆうちゃん?! コンタクトレンズ落としましたよ。わ、うぎゃ鼻血ってまたナニをどうしたらそんなことに」


「いやもうナニが限界って紬衣ゆえにハジメテのカラーコンタクトレンズを入れる手伝いをしているだけなのに試される俺の理性と雄勁ゆうけいたけり立つ妄想はいつだって冷静と情熱の一往一来いちおういちらいにあるというのは即ち膨張と解放を繰り返し何度だってイ……じゃなくってつまり紬衣ゆえが見ている前ではナニをどうしたくともナニも出来ないからに決まってるだろ……とはいえしかしイロエロ最高ゴチソウサマでした」


 重ねて説明しよう。

 ピンク色をしたを片手にし弁舌も爽やかに鼻血を出している残念すぎるこの人物こそ当物語の主人公であり、いつだって幼馴染の紬衣ゆえへの揺るぎない執念とたゆまぬ妄想が日々の活力であると声高に本人紬衣へ直接的な態度で示したくて止まない朝永ともなが ゆうがその人である。

 が、未だ一向に報われる気配すらない。

 


「……ちょっと待ってください紬衣ゆえさん。さっきから話を聞いていれば……ねえゆうくん、挿れるところは二つあるんですよ? 僕に一つハジメテを譲ってくれても良かったんじゃないですか? 次のハジメテはきっと三人で練習しましょうね、紬衣ゆえさん。それにしてもコンタクトを装着するための器具なんてあるんですね。知らなかったなあ」

 

 以降、ゆうの利き手所持活用に於ける利用頻度も高く様々なアレンジメントを施すことになる『鼻血塗ハナヂまみれコンタクトレンズ狂詩曲ラプソディ』から何日か後の現在。口を尖らせているのはご存知、紬衣ゆえにご執心のいつだって目の付け所がディープで目指している未来はゆうと同じ冬馬とうまだった。


「うん? その台詞ナニがナニやら色々と突っ込むところが物理的にも心理的にもあるよねって、いや、それよりもどうして俺が紬衣ゆえのハジメテを譲るなんて思うわけ?」


 机を挟み向かい合う二人が乾いた笑い声を上げるのを見ながら紬衣ゆえは「三人でする練習ってナニがあるんですか?」と可愛らしく首を傾げる。


 そんな紬衣ゆえを見つめながら「いつか僕が教えてあげるから、いまは分からなくて良いんだよ、Ma biche仔鹿ちゃん」と甘く囁く冬馬とうまを横目にナニならハジメテどころか紬衣ゆえに四十八手、いや表裏合わせて九十六手の全てを生涯掛けて教えてあげるのは自分のほかは無く、いかなる場所へのナニもモノも闖入チンニュウは決して許すまじと本日何度目かの新たな決意と昂ぶりで膨張し妄想し打ち震えるゆうが、ややもすれば前屈みである理由もまた単純として明々白々であった。


「ところで紬衣ゆえさん、今日の本番もゆうくんに頼んだんですか?」


「むふふ、えっへん。違いますよ。最初は怖いし、なかなか入らなくて痛くてツラかったのですが、いまは自分で挿れることも出来るんです」 


「練習の成果ですね紬衣ゆえさん。ぜひ次は僕も一緒に。それにしても実に可愛らしいネコ姿に、ぎゅっとしたくなります。しかし、どうして皆さんみたいにボディスーツにしなかったんですか? まあ、ゆうくんはアチコチ支障をきたすからなんでしょうけど」


 ちらと冬馬とうまの視線が机の下に向けられる。


「……ヤメろ、変態。ってそんないくら紬衣ゆえ凹凸おうとつがささやかでも露呈しまくりになるモノを俺が着せるわけがないだろ」


 文化祭のクラスの出し物で、仮装ネコカフェをすることになった為、紬衣ゆえは黒のゴスロリ服にケモ耳と尻尾を生やし両頬に三本のヒゲを描き、目には練習の成果である赤いカラコンを入れた黒猫の格好で、ゆうといえば、さりげなさを装う気もなくあからさまにお揃いにした黒いケモ耳と赤いカラコンにタキシードを着て獣人設定のカフェ支配人のようである。

 教室内では、ネコカフェというよりキャッツも真っ青な化け猫仮装会場かといった方がしっくりくる様相のクラスメイト達が、歌い踊ることなく給仕に忙しくしていた。


「ふうん。僕には到底及びませんがゆうくんも残念な中身が分からなければ格好良いってのが悔しいですね」


「日本語が不自由な訳じゃないんだよな?」


冬馬とうまくんのクラスは、劇ですか? 王子サマなんて素敵です」


 二人の言い合いを余所に王子サマ衣装をウットリと見つめる紬衣の手を取った冬馬が、その指先に柔らかく唇を落とす。


「僕のお姫さまは紬衣ゆえさんだけですよ?」


「ぐぬぬ……」


ゆうちゃん? 目が潤んでますけど、もしかして……」


「ち、違うッ……これッこれは……」


「はわわわッ……じ、じゃあヨダレ? 悠ちゃんは目からヨダレが出ちゃうほど王子サマの冬馬とうまくんのお姫さまになりた……」


「って、紬衣ゆえどうしてそうなるんだよ?!」


「え? だって前にゆうちゃんが、俺の目から出てるのは涙じゃない汗だって言ってたじゃないですか。汗が出るようなことはしてないしヨダレかなって」


「じゃ、じゃあコレも……汗だ」


「悔し涙ですよ、紬衣ゆえさん」


「そっか、ゆうちゃんも冬馬とうまくんにチュッてして欲しかったんですね? ゴメンね?」


「ち、違う!! って……とりあえずさっさと消毒しろ」


 動揺するあまり上書きという乙女が憧れるある意味オイシイ行為を消毒薬を塗布するという上滑りするだけの置換チカン行為で台無しにするゆうであった。



 かくして残念すぎるゆう性春せいしゅんはカクコンの文字数の関係により割愛され、おとぼけ過ぎる紬衣ゆえに振り回されるまま社会人になり

『マスターマイスター』https://kakuyomu.jp/works/16816700427119899568に続くのである。

宣伝かよ!?




《おしまい》



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変態の耐えられない重さ 石濱ウミ @ashika21

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