E-3

 この薄暗い部屋が、私の世界の全てだった。

 あの日以来、世界のすべてが恐ろしくて、だから私は、この部屋だけで十分たくさんだと思っていた。



 だが、それは変わった。

 ついこの前、あんな事件に巻き込まれて。



 嫡主という、あの女の言葉が今も脳に残っている。


『嫉妬』

『それは他者を知り、比較し、より良くあろうとする知的活動の副作用』


 そして私は嫉妬に染め上げられ、あの凶行に及んだのだ。



(……嫉妬が)

 だから、思う。

(それが、そういうものであるなら、私も)

 ――私もまだ、良くあろうとできるのだろうか?




 ベッドの上。私の定位置から身を起こし、恐る恐るカーテンを開く。

 久しぶりに直視する、外。

 夕方の空。昼が終わり、夜が来る。黄昏の時間。

 透き通るような紺色の夜空には、沈みゆく太陽が光を投げかけ、淡い色の月が静かに漂い。


「……ああ」


 それらに囲まれて、僅かな光を放つ真珠星スピカ


「星も、光ってる――」



 私はその日、ずいぶん久しぶりに、希望で涙を滲ませた。

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魔法少女と魔法少女と、俺 浴川 九馬 @9ma

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