【声色カメレオン】

三角さんかく

【声色カメレオン】

「13時になりました。『今日は何の日!』のコーナー!本日4月21日は放送広告の日!1951年のこの日、日本で初めて民放16社に放送の予備免許が与えられ、翌1952年のこの日に民放連が発足しました!」

 明瞭で綺麗な声……まるで歌っているかのように耳触りが良い。始まった校内放送ラジオに、私は耳を傾けていた。今日は木曜日。ウチの高校の校内放送ラジオのDJは毎曜日変わるのだが、私は木曜日担当の男の子の声が一番好きだ。


 ラジオ、こんなに面白いのにな~。


 正直、ちゃんと聞いている人は少ない。皆、友人とお喋りしていたり、校庭で遊んでいたりして、ラジオになんて興味がないみたいだ。まあ、それもそうか……今時ラジオなんて媒体、聞いてる人の方が少ないよね。


 私はお弁当を食べながら、軽快に学校行事などをお知せするDJが、どんな人なのかを想像していた。入学して二週間。私は校内ラジオを欠かさず聞いていてる。所謂いわゆる、ヘビーリスナーだ。曲のリクエストなども出して、そのリクエストが通る度に小躍りしている。


 昔からラジオが好きだった。


 TVやYouTubeと言った媒体も好きだけれど、やはりラジオが一番だと思う。受験期に、好きなお笑い芸人のラジオを聞き始めたのを切っ掛けに、私はラジオの魅力に取り憑かれていた。


 ラジオの魅力は何といっても、あの空気感だろう。


 その人の時間を独り占めしているような気持ちになる。例えば、好きな有名人もTVでは見せてくれない独特の顔(声だけど)を見せてくれるし、リラックスしてエピソードトークなどをしてくれるので、身近に感じる事が出来る。


 また、聞きながら別の事が出来ると言うのも大きいと思う。


 受験期、一人で勉強している深夜、私の傍にはいつもラジオがあった。勉強しながらくじけそうな時、落ち着いた声で話し掛けてくれるDJの人達は、私にとって救いだった。スマートフォンのアプリから聞こえてくる、様々なDJ達の、様々な企画に心が躍った。いつしか私は、ラジオの世界で働きたいな、と言う漠然ばくぜんとした夢を持つ様になった。


 ラジオ局に入社するには、特別な資格はいらないらしいが、大卒が多いとの事。またメディア関係の学部が有利と聞いているので、目標を持って毎日を過ごしている。勉学に手は抜いていない。


「それでは、1年A組の佐倉さくら美優みゆさんのリクエスト!nervousナーバスからデビューシングル!edge-wiseエッジワイズ!」

 あ!またリクエスト曲が採用された!私は嬉しくなって、ラジオから流れてくるロックサウンドに集中した。中毒になりそうなギターリフ。最近、登校中に聞いているヘビーローテーションナンバー。


「本日の放送は、ここまでです。では、皆さん。午後からの授業も頑張ってください」

 放送が終わった。余韻に浸りながら、お弁当を平らげて次の授業の予習を始める事にした。




 午後の古典の授業を受けるのは辛い。満腹になって眠くなった血液不足の頭に、よく分からない単語や文法が出てきて、理解するのが困難だ。必死で板書するのが精一杯。春の麗らかな陽気が相まって、気付けば私はウツラウツラと舟を漕いでいた。


「はい!じゃあ、この冒頭の文を……浅生田あさきだ、読んで」

「はい……」

 ガタっと浅生田と呼ばれた男子生徒が立ち上げる音がした。浅生田あさきだ雅也まさや……いつも一人で居るイメージのある男の子だ。言葉を選ばずに言うと、友人が居ないタイプ。彼が誰かとお喋りしてる姿を、私は見た事がない。私は眠い目をこすって、黒板の方を見た。


「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる」

 古典の代表作である『枕草子』の冒頭を読み始めた浅生田雅也の声を聞いて、私は驚いて目を覚ました。この声、間違いなく校内ラジオのDJの声だ。浅生田雅也が、木曜日担当のDJだったのか。右前方向に居る浅生田雅也に視線を向けたが、ボサボサのセットしていない髪しか見えない。


 授業が終わるまで、私は浅生田雅也の後頭部を見つめていた。


 授業終了のチャイムが鳴って、ぐに浅生田雅也の席に移動した。浅生田雅也が、後ろから来る私の気配に気付いて振り向く。細い目に薄い唇。印象はあまり良い物ではない。


「何?」

 冷たく言い放った浅生田雅也の声は、先程聞いた木曜日担当のDJの声ではなかった。それに吃驚びっくりして、浅生田雅也の顔を見ていると、浅生田雅也はクルっときびすを返して何処かへ行ってしまった。


 さっき聞いた声よりも半オクターブ程高い……


 私は混乱して、自分の席に戻った。






 次の日、悶々とした気持ちを抱えながら、私は職員室の扉をノックした。放送部に入部したいと思って、入部届の用紙を貰いに来たのだ。


 担任の男性教師の元へ行き、事情を話すと担任は少し困惑した顔をした。


「放送部か……」

「何かあるんですか?」

「いや……放送部に同じクラスの浅生田雅也が居る事は知ってるか?」

「知りませんでした」

 嘘だ。確信めいたものがあった。それを確かめたくて、入部しようとしている。


「浅生田、実は留年しててな。元々、気難しい奴だったんだが、留年して以来、増々気難しさに拍車が掛かったというか……う~ん。上手くやっていけるかが不安だ。佐倉はしっかりしているけれど、浅生田がどう思うかなんだよな」

「大丈夫ですよ」

「そうかあ?」

 担任は机の中から入部届の用紙を出して、私に差し出した。


「まあ、入部に反対!って訳じゃない。書いたら、提出してくれ。放課後、顧問の先生と浅生田が放送室に居ると思う」

「ありがとうございます」

 私はその場で、入部届の用紙に自分の名前を書いた。


「やる気満々だな」

「はい!」

 担任は笑顔で入部届を受理してくれた。


 放課後になって、放送室を訪れた。顧問は古典担当の先生だった。あの時に浅生田雅也を指名した先生だ。ペコリ、と頭を下げると、顧問である古典担当の先生がにこやかに椅子を出してくれた。


「佐倉さん。担任の先生から話は聞いてますよ。どうぞ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

「そろそろ部長の浅生田が来ます。もう少し待っててくださいね」

 放送室の埃っぽい匂いを嗅ぎながら、機材に目をやる。編集機材他、様々な校内放送機材があって見ているだけで楽しくなってくる。これはどんな風に使うんだろう?あれは録音機材だろうか?と考えを巡らせていると、放送室のドアが開いた。


「ちわっす」

「お!浅生田、来たか」

「先生、遅れてすいません。掃除当番で」

「ああ、構わないよ」

「ところで……」

 浅生田雅也が私の方を指さして、不機嫌そうな表情を浮かべて言った。


「まさか新入部員ですか?」

「そうだよ、浅生田。お前と同じクラスの佐倉美優さんだ」

 はあ、と溜息をいて浅生田雅也は軽く首をかしげた。


「佐倉。お前なんで放送部に入部しようって思ってるの?」

「私、将来はラジオ局に勤めたいって考えてるの。後、校内ラジオのファンでもあるのよ」

「へえ」

「特に木曜日担当の声が好き。放送部には何人の部員が居るの?」

 軽い疑問をぶつけると、浅生田雅也は少し困惑した表情を見せて、先程より少し重めの溜息を吐きながら私に言った。


「へ!?」

 私は言葉を失くして立ち尽くした。




「俺、声帯模写が得意でさ。将来は声優になりたいって考えてる」

「そうなんだ……あれ?確か火曜日の声って女の子だったよね?あれも浅生田?」

「そうだよ」

「え?ホントに?」

「やってみせようか?」

 咳払いをした後、浅生田雅也は、あーあーと声の調子を整えて、軽く目をつむった。


「おやおや八百屋さん、お綾は親とお湯やだよ」

 放送部の練習の台詞せりふらしい文言をスラスラと言葉にする。その声は紛れもなく、火曜日担当の女の子の声をしていた。


 驚いて、ポカンと浅生田雅也を見つめていると、浅生田雅也はニヤリと笑って、次々と声色を変えて私に話し掛けた。まるでサーカスの出し物でも見ているかの様に、私の心は躍った。


「凄い!浅生田!あんた凄いよ!」

「まあな。誰にも言ってないし、これからも言わないって決めてる。変に注目されたくないんだ。だからお前も誰にも言うなよ」

「うん!分かった!」

 私は興奮して、浅生田雅也の手を取った。


「な、なんだよ」

「私、あんたのファンだから!これからよろしくね!」

「お、おう」

 こうして私の放送部活動は始まった。


「兎に角さ、まずはラジオのリスナーの数を増やさないと!」

「んー。俺は別にリスナーの数にはこだわってないから、どうでもいいけどな」

「何言ってんのよ!どうせやるなら、皆に聞いてもらいたいじゃない!」

「まあ、それもそうだな」

「色々な企画考えないとね!」

「企画かあ……」

「曲のリクエストの他にも何か企画考えましょうよ」

 浅生田雅也は、う~んと天井を見上げて腕を組んだ。


「俺、あんまり世俗的なのはやりたくないなあ。硬派なラジオにしたいんだよ。だから、そういう方向性で頼む」

「分かったわ!」

 私はノートを取り出して、色々な企画を書き出した。


「例えばさ、折角『今日は何の日!』のコーナーがあるんだから、『雑学紹介』のコーナーとかどうかな?」

「へえ。それは面白そうだな」

「雑学ならネットにいくらでも転がってるし!」

 テンションが上がって来た。湯水の如くアイデアが湧いてくる。


「そうだな……『映画紹介』とか『オススメ漫画』とかもありだよな?」

「それいいかも!皆が興味出るような企画ね!」

「よし。じゃあ、来週から曜日ごとに企画を小出しにしていくか」

「うん!私、将来は企画担当したいから、色々調べてくるね」

「助かる。佐倉、お前、思ってたより優秀だな」

 ニコッと笑う浅生田雅也の笑顔は、お世辞にも爽やかとは言い難かったが、私は尊敬してるDJに褒められて嬉しかった。


「じゃあ、来週にでも編集会議をしよう」

「OK!資料作って来るね」

「頼んだ」

 楽しみだ。


 帰宅して直ぐにPCを立ち上げて、企画を練った。皆の興味を惹きそうな雑学を調べたり、自分の見た事のある映画の紹介ストーリーを文字に起こした。ワクワク感が止まらない。これがラジオ制作か。勿論、プロでも何でもない、ただの校内放送だけれど、私にとっては初めての企画作成。気合が入るのも当然だ。


 その日は深夜まで、色々な調べものをした。


 月曜日、登校して浅生田雅也を待った。浅生田雅也は遅刻寸前に教室に入って来て、私を見つけるなり手を挙げた。それを見て、私も浅生田雅也に手を振る。


「浅生田!私、色々企画考えてきたわよ」

 小声で話し掛ける。浅生田雅也は自分がラジオDJだと気付かれたくないと言っていたので、周りにはバレないようにと配慮した。


「おお、楽しみだ。昼休み、放送室に来いよ。まあ、今日は普通に放送するけど、放送が終わったら、色々相談しようぜ」

「うん!」

 昼休みが待ちきれない。私はソワソワしながら、午前中の授業を受けた。


 昼休みになって、浅生田雅也と放送室に向かう。12:50。もうすぐ放送開始だ。浅生田雅也は慣れた手つきで放送設備をいじって、マイクを自分の口に近づけた。手元には、本日の放送内容を印刷した原稿。トントンとマイクを叩いて、音声チャックを終えて、浅生田雅也は放送を始めた。


「13時になりました。『今日は何の日!』のコーナー!」

 間近で浅生田雅也の七色の声を聞く。まるでカメレオンの様だな、と私は思った。誰も聞いていない状況なら、思わず歓声を上げてしまうところだ。


 30分ほど放送して、浅生田雅也はクローズトークに入った。それを聞き終えて、浅生田雅也がマイクの電源をオフにするのを確認してから拍手をする。浅生田雅也は、やめろよ、と言って笑った。


「お前、飯食ったか?」

「一応、お弁当持ってきてる」

「そうなのか……俺、弁当ないから購買で何か買ってくるわ」

「いつも購買なの?」

「あー、学食でもいいんだけど、時間あんまねえから」

「じゃなくて、お弁当は?」

「うち、母親が居ないんだよ。って言っても、生きてるんだけど。パート先の店長と駆け落ちしてさ。それが原因って訳じゃないんだけど、すさんじまって、俺、留年してるんだよね」

 軽く身の上話を告白されて、私はどう声を掛けていいのか迷った。それを察したのか、浅生田雅也は首を横に振って明るく私に言った。


「気にしないでくれ。同情なんてまっぴら御免だ」

「分かった!気にしない!」

「切り替え早いな、お前」

「ねえ、提案なんだけど……」

「なんだよ」

「私がお弁当作ってきてあげるよ。私も母親が居なくてさ。兄弟とかパパの分も私が作ってるから、一人分くらい増えても変わらないのよね」

「え!?マジ?すげえ助かる!」

「いいよ」

 私は親指を立てて、浅生田雅也に微笑んだ。


「まあ、別に付き合ってるって訳でもないから、対価は払うわ。500円くらいでいいか?」

「お金なんて要らないよ」

「いや、そういう訳にはいかねえ。じゃあ300円!」

「分かったわよ」

「ありがてえ~」

 浅生田雅也は両手を合わせて、私を拝んだ。


「取り合えず、今日は購買行ってくる。ちょっと待っててくれ。帰ってきたら、編集会議しよう」

「OK!」

 浅生田雅也は放送室を出て、急いで購買の方へと走って行った。


 そうか。浅生田雅也にも色々あるんだな。口では気にしないとは言ったけれど、少し同情してしまったのは否めない。明日から、少しだけ早めに起きて、弁当の準備をしないとな、と思った。


 浅生田雅也は、放送部に戻って来るなり、総菜パンを食べながら私の企画を聞いた。まるで経営者にプレゼンする新入社員の様な気分。採用されたい!私は必死に企画内容を説明した。


「良いんじゃないか?割とリスナーに寄り添った企画だし。ただ、『恋愛相談企画』ってのは止めて欲しいな。俺、そういう世俗的なのは嫌なんだよ」

「拘り過ぎじゃない?」

「嫌なものは嫌なの」

「分かったわよ」

 企画が全て採用という訳にはいかなかったので、少し残念だったが、それでも期待以上の成果が出せて、私は大満足だった。


「じゃあ、明日の放送内容を詰めていくか。放課後、時間ある?」

「うん」

「じゃあ、放課後に」

「分かった」

 浅生田雅也と部活動をする様になって、毎日が楽しい。私は教室に戻ってからも、頭の中で企画を考え続けた。


 次の日の放送から、私の企画は始まった。雑学紹介のコーナー、オススメ漫画紹介のコーナー、先生へのインタビューなど、企画は多岐に渡った。教室に戻ると、私が放送部部員だと知る友人達が、佐倉、今日の校内ラジオ聞いたよ。最近のラジオ、凄く面白いよ。と言われて、私は有頂天だった。思わず、浅生田雅也の事を口にしそうになったけど、なんとかこらえた。


 徐々に校内ラジオの人気が出てきて、私達は毎日部活動に熱中した。ああでもない、こうでもないと、企画会議を練ったけれど、浅生田雅也は拘りが強くて、明らかに人気の出そうな企画であっても、首を縦に振らない事も多かった。


 周りから、「恋愛相談企画」をやって欲しいと言う声が多くなってきて、浅生田雅也が一度拒否したその企画を、もう一度提案する事にした。こんなにもリクエストがあるんだよ、という話をしたかったのだ。しかし、浅生田雅也は一刀両断、私の提案を拒否した。


「なんでよ!絶対に盛り上がるわよ!」

「うるせえな。絶対やらないからな。俺は、そういうのじゃなくて皆が平等に楽しめる企画がしてえんだよ。どうせ女生徒ばっかしか盛り上がらねえよ」

「別に女生徒だけじゃないわよ!男の子だって恋バナ好きな子だって居るじゃない!」

「あー、もう。兎に角、却下。そんなにやりたけりゃ、一人でやれよ」

 売り言葉に買い言葉が止まらなかった。


「もういいわよ!私、部活辞める!あんた一人で頑張って!」

「おう!せいせいするわ!じゃあな!」

 私は放送室を飛び出して、教室に向かった。途中で何故か分からないけれど、涙が溢れてきて、右腕で自分の涙をぬぐった。


 次の日、ショックで学校を休んだ。父親に心配されたけど、少し体調が悪くて……と誤魔化した。兄弟や父親を見送って、私はベッドに横たわった。あの分からず屋、本当に腹が立つ。


 次の日、流石に二日連続休む訳にもいかず、私は重い足取りで登校した。


 浅生田雅也は、またまた遅刻ギリギリに教室に入ってきた。私を見つけるなり、気まずそうな顔をする。私は正直、仲直りしたかったけれど、素直になれずに明後日の方角を見た。


 昼休みになった。


 鞄からお弁当を取り出して、校内ラジオが始まるのを待った。


 13:00になるのが、少し怖かった。


「13時になりました。『今日は何の日!』のコーナー!」

 いつもの様に校内ラジオが始まった。聞いているだけで胸が苦しくなってきた。それでも浅生田雅也の声に惹きつけられる。ああ、私は本当に浅生田雅也のファンなんだな、と自覚した。





「続いては新企画!『恋愛相談』のコーナー!」




 食事中の私ははしを落としそうになった。いきなり始まった恋愛相談のコーナー。ドキドキして、私は浅生田雅也の声に集中した。


「今回のご相談は1年A組の浅生田雅也さん。なんでも親友の様に思ってる友人と喧嘩して、離れた事によって自分の恋愛感情に気付いたとの事です。」

「う~ん。女性目線からすると、コチラから謝るのがいいのではないですかね?」

「え~?俺はそうは思わないな。喧嘩するくらい仲が良いとも言うし、自然な流れで仲直りできるでしょ」

「拙者もそう思うでござる」

 何人ものキャラクターを演じて、浅生田雅也は恋愛相談のコーナーを続けた。


「ん~。結論としては、ちゃんと謝って告白するのが良いですね」

 私は居ても立っても居られなくなって、教室を飛び出して放送室に向かった。


 放送室のドアを勢いよく開けると、浅生田雅也が驚いて振り返る。


「おや。どうやら相談者の浅生田雅也と喧嘩した親友がやってきたようです。飛び入りゲストの佐倉美優さん。こちらへどうぞ」

 冷静にラジオの進行を進めながら、浅生田雅也が手招きした。私はマイクの方へと近づいて、どうすればいいの?と小声で言った。それを笑顔で無視しながら、浅生田雅也は放送を続けた。


「皆さん、DJの浅生田雅也です。実は今回、何人もの部員と相談している様に聞いていただきましたが、僕一人で演じていました。僕は将来、声優になりたいと思っていて、ラジオを通して声優の訓練をしていました。僕にとってのラジオは、ただ単に声優になりたいって夢への訓練でしかなかったんです。しかし、彼女……佐倉美優と出会って、ラジオの楽しさを知りました。一昨日、彼女と喧嘩別れしてしまって、とても悲しかった。今日は謝罪と彼女へ想いを伝えたいと思います」

 浅生田雅也は私を見つめて、素の声で私に頭を下げた。


「佐倉。一昨日は、ごめん。あの後、凄く寂しくなった。俺に取って佐倉の存在は、とても大きいんだって理解させられた。これからも俺の相方として、出来れば恋人として、校内ラジオを盛り上げて欲しい」

 顔を上げた浅生田雅也の顔は真っ赤に染まっていた。


 私は浅生田雅也からマイクを奪って、頷きながら言った。

「喜んで!これからも一番のファンでいさせてね!」


 その答えを聞いて、浅生田雅也はクローズトークに入った。

「そろそろお時間です。今日も聞いてくれたリスナーの皆さん、ありがとうございました。恋愛相談のコーナーも、これからよろしくお願いします。DJの浅生田雅也でした」

 マイクをオフにしたのを確認してから、私は浅生田雅也の胸に飛びついた。







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