森の掃除屋は人知れず仕事する

独り遭遇した壮絶なある一日の出来事ながら、読了後に感じたのは新たな可能性を孕んだ腐葉土の香りでした。しかし、それを生み出した森の掃除屋は、己の仕事を推し量る術を知らず、ただ黙々と歩き彷徨う。

主人公が見た走馬灯は、仄暗い薄闇の中に灯る微かな希望のようにも感じられます。絶望的な状況から起死回生する、ひいては倒木更新のように自然界では人知れず繰り返される再起の光景を暗示しているようでもありました。

伏せている時間に身を委ねれば壮絶な恐怖と絶望、しかし立ち上がって振り返れば、孤独であったからこそ得られた安堵。

作品の趣旨とは少しずれてしまうかも知れませんが、このように捉えるのは甘えでしょうか。人知れず打ち崩れるかも知れない未来を想えば、その時は一際静寂であって欲しいと願うばかりです。