生き返った寿司屋
結騎 了
#365日ショートショート 331
数日前に死んだ寿司屋が、自宅に帰ってきた。
暖簾の準備をしていた弟子は仰天した。「大将!まさか本当に生き返ったんですか!?」
「だから言っただろう。フランケンシュタインの怪物からネクロマンシーまで、古今東西、ありとあらゆる死者蘇生の術を研究したんだ。準備を整えてから死んだ。だから生き返るにきまっている。私の研究は間違っていなかったのだ」
大声で笑う寿司屋は意気揚々と店に戻った。ネタを仕込み、店を清掃し、開店の準備をする。
「らっしゃい!」
「おう大将、無事に戻ってきたのかい」
一番乗りは常連の男だった。カウンターに座るやいなや、いつも通り、まずはマグロを注文する。
「へいお待ち!」。とんっ、と目の前にマグロの寿司が置かれた。それをひょいと摘み、口に含ませる。
「おおっ!」。男は目を見開いた。「大将、すごいよ。あんたの目論見は成功したな。ネタの鮮度が段違いだ。こんな寿司は食べたことがない」
寿司屋は大きく頷いた。一度死に、生き返った。いや、正確には、死体が動いていると言った方が正しい。だからこそ、「この指先に温度はありませんからね。握る際にいくらネタに触れても、それに影響を与えません。お客さんの口に入るその瞬間まで、ネタは最高に新鮮です」。
「よっ!寿司のために死ぬとは!あんたは最高の寿司職人だよ!」
常連の男は大袈裟な拍手を繰り出した。
半月後、寿司屋は魚の風味が全く分からなくなり、泣いていた。自分の体から漂う腐臭のためである。
生き返った寿司屋 結騎 了 @slinky_dog_s11
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