第26話 不意打ち
第四階層に出現した魔物の討伐には学園の生徒たちも向かう。実践的な戦闘訓練を行うわけだ。もちろん正規のワルキューレも同行してある程度の安全は確保する。が、それは2年生からのお話。一年生にはあまり関係がない。とはいえあんな襲撃があった後だ。念のため武器は持たせる。
「先生」
生徒が武器庫から武器を持ってくるまでの待ち時間。オレは教室の窓からぼーっと外を眺めていた。そんなオレの背中に掛けられた声はムゥのものだ。隣にマノーもいる。
「速いな」
マノーは銃型の魔器を、ムゥは盾型の魔器持っていた。特に強い力は感じないから量産型だろう。
「はい。……あの」
「どうした?」
ムゥが何か言いたそうにしている。
「わ、私たち、幼馴染なんです」
「え? あ、おう」
なんか急にカミングアウトされた。
「そ、それで小さい頃に2人とも魔物に襲われたところ助けられたことがあって、ワルキューレをなろうと思ったんです」
「お前ら、第3世代じゃないのか」
「そうです。手術で魔力を使えるようにしてもらいました」
今は7、8割ぐらいが第3世代とか聞いたから少数派だな。
「……正直、魔物と戦うのは怖いです。で、でも私を助けてくれた人のようになりたい。その夢を私たちは諦めたくありません。だから、とりあえずやってみようと思います。私も、マノーも」
昨日の今日でもう答えを出したようだ。
2人とも決意のあるを目をしている。ちゃんと考えたというのは伝わってくる。
「そうか。ま、オレに言ったところでどうにもなんないけどな。諦めず頑張ってみろ」
「はい。ちゃんと見届けてもらえると嬉しいです」
「見届けられるぐらいここにいるかわかんねぇよ。それよか席座って待ってろ」
オレは見届けることが多すぎる。そんな約束できればしたくない。だから無理やり会話を終わらせてやった。
大人しく2人はは自分の席に座りにいく。素直にいうことを聞いてくれるなんてあいつとは大違いだ。
「あ、先生、もしかして私のこと考えてます?」
「考えてねぇよ。テメェも座れ」
噂をすれば出てきた。こいつは自分の魔器を持っているはずだというのに、どこに行ってたんだろうか。まあなんでもいいや。
「嫌です」
「は? 何言って──」
首を右に傾けた。すると次の瞬間、オレの頭部があった場所にスヴィの短剣があった。
「あんまりふざけるなよ?」
オレの顔面に短剣を突き刺そうとしてきた。本気だ。前回首に刃を当ててきた時とは訳が違う。明確な殺意があった。
「ふざけてるように見えます〜?」
「いや、全然」
さっきまではそんな様子はなかった。別れてからここに来るまでの間に何があったんだ? 5分ぐらいしか経ってないぞ。
「そうなんです。ふざけてないんですよ〜」
「なんかお前を怒らせることしたか?」
「え? まさか! 私は先生のこと好きなままです!」
「ならなんなんだ」
「なんか命令が来ちゃったんです、先生を殺せ〜って」
命令? こいつらに命令ということはアポストルからということになるが、どういうことだ? オレの存在が見つかってるのはわかるとしても、殺す理由がどこにある。
「というわけでー、死んで?」
「投降とかないのか?」
「殺せとしか言われてないからないんじゃないですか〜?」
アネラが何も言って来なかったということは、フォルティナウスに情報が通っていない。正式な命令じゃない? いや、考えたところで無駄か。今はこれをどうするかだ。
「ま、待ってください!」
制止の声を出したのは唯一休日に戻ってきていたムゥだ。
「先生が何か悪いことをしたんですか……?」
「さぁ? でも命令だから」
「…………」
立ち上がったムゥとマノーが、それぞれの魔器をスヴィに向けた。
「先生から、離れてください」
「んー、これって上の方からの命令なんだけど、それに逆らうってどういう意味かわかる? アポストルに逆らうってことだよ?」
「だとしてもこれは納得できない」
「納得?」
「ワルキューレは人々を守るのが役割でしょ? これは違う」
「だから私と戦うの? A級だよ?」
「……誰かを助けられる人に、なりたいから」
「…………」
「えー、どっちもやる気なんだ。そっかー、ならしょうがないな〜」
脱力するように武器を下ろした。諦めた、そう思って2人が安堵した瞬間、下ろされた手が動き出す。
「それじゃまず2人から!」
スヴィは握った短剣をムゥ目掛けて突き出した。これも殺す一撃だ。容赦はない。ただ殺すためだけの攻撃。
「ちっ!」
間も無く当たる。その寸前でオレはそれを蹴り上げた。
「え?」
「あは!」
2人は驚き、1人は笑った。
「……マノー、ムゥ下がってろ。オレがやる」
「え、でも、先生は男の人……」
「男もやる時はやるんだよ。ほら、外出るぞ」
「がっ……!?」
魔力を込めた足で腹を蹴って無理やりスヴィを廊下まで飛ばした。
「ははっ! やっぱり……やっぱり普通の男の人じゃなかった!」
「ったく、無邪気に喜びやがって。ちょうどいい機会だ。二度と生意気言えないようにわからせてやるよ、ガキが」
「いやん、怖い! でも、かっこいい! あぁ、濡れてきちゃった……」
顔を赤らめて恍惚とした表情をしてる。やばいやつだ。
「私やっぱり先生のこと好きだなぁ……。でも殺す。殺しちゃう。あはは!」
笑いながら突っ込んできた。武器は短剣。リーチは短い。かといってオレの武器も即座に使えるのはリーチの短い拳だけ。戦うのなら近づくしかない。とりあえず狙うのは攻撃を避けてのカウンターだな。
大振りの一撃目を避ける。明確な隙だ。だが明確すぎる。まず間違いなく罠だろう。
「もう一本か」
「正解!」
短剣は一本ではなかった。スヴィは反対の手に握られていた短剣でオレを突き刺そうとする。しかし、備えて距離を空けていたため当たることはなかった。
「へー、戦い慣れもしてるんだ。なら、これは?」
今度は短剣を投げてきた。
当然避けるわけだが、変だ。オレが避けた隙を狙うというわけでもないらしい。スヴィの足は動かない。なら何故投げた? 避けられないと思った? いや、違う。ここまでであれが避けられることぐらいはわかってたはずだ。となると避けられてもよかった? 武器を一つ失うというのに? ……いいや、これはただの武器じゃない。魔器だ。
「……!」
短剣がオレの横を通過した、その刹那、避けた短剣とスヴィの位置が入れわかった。
「入れ替えの能力」
スヴィは背後からもう一本の短剣でオレを攻撃しようとしている。そして一度避けた短剣が再びオレに向かってきていた。1人での挟撃が成立している。
相当戦い慣れてるな。これは避けられない。けど、避ける必要もない。
「え、嘘」
飛んできた短剣は掴み取り、突き刺そうとしていた短剣は腕を押さえて止めた。
「止められたくなかったらもっと魔力を込めろ」
「ですね〜。まあ止められてもいいんですけど。あは」
笑った。
「なに?」
消えた。目の前にあったはずのスヴィの姿がない。
「……いや、逆か」
消えたと思ったが違う。あいつじゃなくてオレが移動している。校舎の廊下にいたはずが、今いるのは生徒たちが訓練に使う運動場だ。
「3本あったんだな」
手に持ったあいつの短剣を投げ捨てる。つまりは今捨てた短剣と、ここにあらかじめ置いておいた短剣を入れ替えたんだろうな。持ってるやつも一緒に入れ替えるなんて厄介な魔器だ。B級以上だと壊せないのがさらに面倒臭い。
「で、次はお前が相手か?」
運動場にいるのはオレだけじゃない。
刀型の魔器を腰に掛けたA級のソグンもいた。オレを待っていたようだ。
「ああ、死んでもらう」
淡々と死を口にする彼女には、先ほど見せた恥じらう様子など微塵も存在しなかった。
不死の下僕 〜平穏な日常を求めていただけなのに、なぜオレは金髪美少女の下僕になっているんだろうか〜 久我尚 @kugasho0517
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