企画入賞レビュー「感動は王道と共にある」

読んでいて普通に泣いてしまいました。
この感動はいったいどこから来るのかと言えば、やはり「感動のツボ」を押すのが上手い人は「こちらの見たい物をしっかり見せてくれるから」だと思うんですよね。感動と意外性は水と油。どちらか一方しか表現できないのです。
この作者さまはその辺りをきちんと押さえてあり、段階を経て伏線布石を張り巡らせながらオチにはこちらが期待したものをキッチリ用意してある。これを待っていたんだろ? そう言わんばかりにクライマックスで仕掛けの演出を完璧に決めてくれるからこそ、読者の胸にあふれだす物があるのではないかと。
そこに至るまでの流れはさりげなく、自然体に。そして、ここぞというタイミングで激流へと変わる。美しく、完璧なプロットです。

そして見せるべきものを表現し終えたら多くを語らない。言葉少ないからこそ余韻は残る。熟練の書き手なら、何が言いたいかは何もかも伝え終えてあるはずです。

結論を述べれば、この作品はとても用意周到であった。そういう事なのでしょう。
ただ感情のままにキャラクターを喋らせば良いというほど単純ではありません。

短編でも、いや、短編だからこそプロットはしっかりと。
偶然から感動は生まれたりしない。
それを証明してくれたこの作品こそ入賞に相応しいと確信しています。