ニトリヨウヘイ 第2話

 コーヒーを飲みながら、ニュースサイトをいくつかハシゴした。やはり、どこにも千葉県S市で発生した発砲事件のことは書かれてはいない。女帝はうまく事の処理を行ったようだ。


 続いて、検索サイトで『サトミ・ヤマト』の名前を打ち込んでみる。いくつか該当する人物がヒットした。

 この時、私はあることに気づいた。サトミ・ヤマトはどちらが苗字で、どちらが名前なのだろうか。里見という苗字もあれば、里美という名前もある。ヤマトに関しても大和という苗字と名前が存在するのだ。サトミ・ヤマトがどんな人物なのか。それを問いただそうにも水戸はすでに死んでしまっている。いや、水戸が生きていたとしても、水戸はサトミ・ヤマトがどんな人物であるかは知らないのだ。水戸はただサトミ・ヤマトという人物名を突き止めただけに過ぎない。


 宮田は今夜女帝の部下が迎えに来ると言っていた。いま、京都に行ったところで、私は何を調べれば良いのだろうか。わかっているのはサトミ・ヤマトという人物名と京都にある私立M大学の職員ということだけだ。しかし、私立M大学とサトミ・ヤマトの名前を組み合わせて検索をしてみても、該当する人物には行き当たらなかった。サトミ・ヤマトとは一体何者なのだろうか。


 ビルの廊下に設置してある人感センサーが甲高い電子音で来客を知らせた。パソコンの画面から顔をあげると、そこには例の縦にも横にも大きな男がいた。


「社長からだ」


 そういって男はスマートフォンを手渡してきた。

 社長というのは宮田のことだった。宮田は暴力団組織の幹部のくせに、表向きの不動産管理会社の社長を気取っており、舎弟たちには自分のことを社長と呼ばせていた。


「電話番号はそのままなのか」

「ああ、同じだ。データも同期してあるから、前と同じように使える」

「そうなのか。便利だな」


 私はそう答えながらも、その仕組みはよくわかっていなかった。

 とりあえず、電話番号や以前受信したメールなどは見れるようになっているようだ。それ以外に必要なものは何もない。

 スマートフォンを触っていると、突然着信を告げた。その番号は宮田のものだった。


「どうだ、探偵。新しいスマートフォンはいいだろ。最新機種にしてやったぞ」

「そうなのか」

「おいおい、もっと喜べよ。最新なんだぞ」


 私にとってスマートフォンは電話とメール、それと簡単な検索が出来ればそれだけで十分だった。別に余計な機能などは必要ないのだ。


「今夜、京都に行くそうだな。ひとつ、頼まれてくれないか」

「なんだ。土産は八つ橋がいいか」

「ふざけるな。俺は真剣な話をしているんだ、探偵」


 宮田は電話口で怒鳴った。冗談の通じない奴だ。私はそう思いながら、宮田の次の言葉を待った。


「人を捜してもらいたい」

「京都でか」

「ああ。俺が昔世話になった人だ。安心しろ、堅気だ」

「その人を捜してどうするんだ」

「俺が会いたいと言っていた、と伝えてくれればいい」

「それだけか。それなら、電話か何かで……」

「俺はお前に頼んでいるんだ、探偵」


 宮田は苛立った口調で、私の発言に被せるようにして言った。


「わかったよ。やれるだけやってみる。その捜してほしい人の情報をくれるか」

「あとでメールで送っておく。悪いな、探偵」

「悪いと思うなら、私に頼むなよ」


 私の言葉に宮田は笑い声をあげた。その笑い声はどこか悲しげにも聞こえた。

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探偵稼業 大隅 スミヲ @smee

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