クローズドサークルの鉄則

結騎 了

#365日ショートショート 327

「おい、あんた探偵なんだろ!殺人鬼と同じ屋根の下で寝るなんて御免だぜ!どうにかしろ!」

 速度を増す巨大台風により、クローズなサークルと化した洋館。閉じ込められた面々は死体を前に口論を続けていた。

 ひとりの男が詰め寄る。その矛先は、椅子に優雅に腰掛け紅茶をすする名探偵・明智ホムだ。

「たしか名探偵とかいったな。早く犯人を捕まえてくれ。こんな状況で一晩が過ごせるはずがない!」

 しかし、明智は澄ました表情を崩さなかった。

「犯人を特定したい。身の安全を守りたい。どちらの優先順位が上ですか」

 ごくり、と紅茶を飲み込んでからの問いだった。一方の男は生唾を飲む。そんなのは一緒に決まって……

「一緒ではありません。そこの死体を見てください。外傷は見当たらず、おそらく毒物による殺害。ということは犯人は彼を殺すためにわざわざ毒物をこの館に持ち込んだと推察されます。つまり、計画的犯行。彼は殺されるべくして殺されたのです」

 余韻と静寂をたっぷり楽しみながら、明智は続ける。

「身の安全が優先、そうではありませんか? 探偵やその協力者が下手に捜査を始めては、犯人を刺激してしまいます。大方、不自然な遺留品が見つかったり、そうと知らず犯人を目撃した証言者が現れます。すると、犯人はそれを処分するためにまた罪を犯す。ですから、問うているのです。身の安全が優先ですかと」

 遅れて、男は口を開いた。「つまり……」

「そう、つまり」。明智は紅茶のお代わりを催促すべく、空になったティーカップをひらひらと振った。「ここでゆっくり、全員で紅茶でも飲みましょう。そうして何もせずに普通に寝るのです。これがクローズドサークルの鉄則。出る杭は打たれると言うじゃありませんか。犠牲がひとりで済むならお釣りが出ますよ」

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