はてなボックス殺人事件 真相

状況はいわゆる二重の密室というものである。

被害者宅に自由に入ることができるのは被害者、あるいは被害者と約束のあった友人のみ。

更に『はてなボックス』の内部に被害者が隠れたのなら、被害者が内部にこもっている限り絶対に箱を開けられず、従って外部から被害者を刺し殺すこともできない。


ではいったい、犯行はどのように行われたのだろうか。

まずはこの事件の犯人に迫ろう。家探しの痕跡もなく犯人は被害者宅のナイフを取り出していること、おそらく被害者の予定が書いてあったのであろうカレンダーを処分していること、(被害者自身の行いである可能性も客観的には存在するが)時計の性質を知っているとしか思えない細工を行っていることから、犯人は幾度となく被害者宅を訪れたことのある人物、つまり被害者の友人であることが確定する。

となれば、隠れた動機もないという前提より、犯人は被害者と口論になった人物となる。

一度口論になった相手を気安く招き入れるとは思えないが、謝罪があったとすればおかしなことではないだろう。


では『はてなボックス』にこもった被害者をどのように殺害するか。

『はてなボックス』内以外に血痕がなかったこと、被害者の死亡時刻近辺の犯人にはアリバイがあることから、刺した後うまく血を処理して『はてなボックス』内に被害者を押し込んだという可能性、及びどうにかして箱の外から被害者を刺殺した可能性は否定される。

そもそも被害者の死亡時刻近辺の犯人には鉄壁のアリバイがあるのだから、その場で殺害したという線を追うことは難しい。


となれば次に追うべきは、犯人が何か仕掛けを施して時間差で被害者を死亡させたという線である。

まず犯人が行動を起こした時間を考えてみよう。被害者の活動の痕跡が四日前から途切れていること、『はてなボックス』は内部から開けられないことから、被害者はその時点から『はてなボックス』内部に閉じこもり――いや、閉じ込められていたと考えられる。

部屋内部の争った痕跡も鑑みれば、ナイフを取り出した犯人から身を守るために自ら『はてなボックス』に入り、出られなくなったのだろう。

この状況は犯人に不利である。四日後の友人との約束の時が来れば、内部に手出しできないまま被害者が救出されてしまうのだから。


そこで犯人は考えた。自分で手を下さずに被害者を約束の日までに死亡させる方法を。

要するに、被害者から希望を奪い去ってしまえばいいのである。

犯人は被害者の自室にあった時計に細工し、本来は午前零時にしか鳴らない時計を正午にも鳴るようにした。

普通なら何の意味もない仕掛けだが、狭い場所に閉じ込められ他に時間を確認する手段がないならば、それが被害者の時間の基準となっていたはずである。

犯人はこの仕掛けで被害者の時間感覚を狂わせ、四日どころかいつまでも助けが来ないと被害者に錯覚させた。

途轍もなく狭い場所に閉じ込められたまま、いつまでも――それこそ一週間経っても助けが来ないと思ってしまった被害者に、もし自殺の手段があったならどうなるだろうか。


つまり被害者自身も『はてなボックス』から出られなくなったと気づいた犯人は、凶器となり得るナイフを敢えて被害者に渡し、精神的に追い詰め自殺するように仕向けたのである。

これが、活動の痕跡消失と死亡時刻との乖離の原因だ。

その後の犯人はアリバイ作りに尽力し、死亡時刻はアリバイがあると主張して罪を逃れるつもりだったのである。

警察は脱出しようともがいた痕跡や胃の内容物の少なさなどから当然この仕掛けに辿り着き、犯人と被害者の約束を突き止め、逮捕に至った。


『はてなボックス』に隠れたとき、被害者は何を思っただろうか。

一度ダメージを受けても死なないアイテムや、反撃のためのアイテム、死んでも生き返るアイテムを求めでもしたのか。

残念ながら現実に、危機を解決してくれる不思議なアイテムなんてものは存在しない。

皆様も、命を護るための希望はよく考えてお選びください。





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作者からのお知らせ

先日予告した長編の新作「いつか魔法が解けるまで」は2/15(水)より投稿を開始します。本文は全部できているので毎日投稿です。ちなみに挑戦状もあります。(まあ本来はなかったものを無理やりねじ込んだだけですが)

執筆のモチベーションになるので是非読んでもらえると嬉しいです。

それとペンネームを「イノリ」に変更しようかと思います。ただ、新作を読んでくださった方が僕だと気づいてくれなくなるおそれがあるので、一週間か二週間くらいはこのままにしておこうと思います。

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1枚見取り図ミステリー イノリ @aisu1415

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