親ガチャ
津多 時ロウ
親ガチャ
お父さん、お母さん。今まで育ててくれてありがとうございました。
お二人が注いでくれた息苦しいほどの愛情は忘れません。
そして、先立つ不孝をどうかお許しください。
お二人に奨められ、希望を胸に正社員として就職しましたが、僕は普通が出来なかったようなのです。
「なんでこんな簡単なことが出来ないんだ!」
「メモなんかとるんじゃねえ! 記憶もできねえのか!」
「お前は俺のいう事だけ聞いていればいいんだよ!」
「業務マニュアル? そんなもん馬鹿か暇人が作るもんだ。お前は馬鹿か!」
「お前がいるとあいつの機嫌が悪くて迷惑なんだけど。とっととやめてくれないかな?」
「くそ忙しいのに稟議書なんて出すんじゃねえよ! 無理に決まってるだろ!」
毎日、毎日、直属の上司や同僚から馬鹿や無能と蔑まれ、それでも会社のために尽くそうと頑張ってきましたが、ついに解雇を言い渡されてしまいました。
思えば小さい頃から、漫画家になりたいと言えば「お前は絵が下手だから無理だ」、プロ野球選手になりたいと言えば「お前にはそんな才能はない」、海外の大学で研究したいと言えば「そんなところに入れるわけがない」と否定していたのはこういうことだったのでしょうか。
誰でもなることが出来て生活も安定するサラリーマンになりなさいと、奨められるがままにサラリーマンになりましたが、その生き方も否定されてしまいました。
僕にはもう、どうしたらいいか分かりません。初めから生きていくための才能がなかったのではないかと思います。きっと、お父さんもお母さんもこのことを知っていたからこそ、僕の夢を否定したのでしょう。
でも、死ぬのは恐い。死ねば何も無い。天国も地獄も何も無い。僕の死という事実が残るだけだと思います。だから、お二人はどうか悲しまないで下さい。過去のことなどいずれ忘れてしまうのですから。でも、でも、死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。もっと、もっと生きたい。生きたかった。沢山の人と漫画の話をして、流行りの小説の話をして、沢山の聖地を巡って、そして趣味の合う人と結婚をしたかった。愛の意味を知りたかった。でも、生きたくない。もう、疲れました。
拝啓、呪いの言葉を最初に発した人へ。
どこのどなたかは存じ上げませんが、僕はまんまと呪いの言葉の連鎖から抜け出すことができませんでした。あなたの目論見通りにことが運び、草葉の陰で高笑いでもしているのでしょうか。
お父さん、お母さん、さようなら。
願わくば、来世ではお二人の子供に生まれないことを。
〔完〕
【あとがき】
いつになく重苦しい内容でしたが、最後までお読み頂きましてありがとうございました。
最初にお断りしますが、私は自殺しませんし、自叙伝でもありません。知り合いが自殺したわけでもありません。
親ガチャと、それから人の、子供の可能性を閉ざす呪いの言葉をテーマに書こうとした作品です。
自分には何も無いと絶望し、死の魅力に取りつかれてしまったときは、どうか一度立ち止まって、言葉で閉ざされた可能性がないか考えてみて下さい。更に生き方の可能性は無限にあるということを思い出して頂ければ幸いです。
また、そうでない人も子供や知り合いに呪いの言葉を吐いてないか気を付けて頂ければ重畳です。
親ガチャ 津多 時ロウ @tsuda_jiro
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