吉祥寺防衛最前線にエールを
- ★★★ Excellent!!!
ある日突然、東京都知事によって東京23区が占拠され、「非東京人」は全て排除されるという斬新かつ衝撃的な出だしでこの物語は幕を開ける。
東京を国として独立させるという作中の知事の言動は一見荒唐無稽だが、実行力として「東京軍」というべき兵力を有しており、自衛隊は歯が立たない。この兵士たちも、ロボットや異界の戦士ではなくどうやら普通の人間、「東京人」らしいのが驚きだ。どうやって一般人をここまで集め秘密裏に訓練したのだろう、知事のここまでやる目的、資本力、背景は得体がしれない。
立ち向かう主人公は政治家、国会議員という立場で多摩区・吉祥寺に設けられたレジスタンスの指揮を取る。
戦いの技術、能力を持つ主人公でないのも新鮮に感じたが、戦争とは1人の兵士の活躍で全てが決まるものではないし、戦略や交渉、事後処理といった面が重要である以上、多面的でリアルな物語が展開出来そうだ。
主人公樋里はまだ若く未熟な政治家であり、市民軍の面々からの信頼もまだ十分ではない。「好感度ナンバーワン」の先輩政治家の遠い背中を追いながら、敵の圧倒的な兵力、指揮すべき味方の不信を前に膝をつきそうになる。
それでも彼の困っている人を見捨てておけない心と吉祥寺への愛は本物であり、そのことが今後この戦いの鍵となるのだろう少女・八千代との出会い・保護に繋がり、このレビューを書いている時点の最新話では敵の過激派を追い払うことに繋がった。
選挙ではないが、挫けながらも前を向き市民に尽くそうとする彼にエールを送りたい。
私は東京に馴染みがなく恥ずかしながら作中の東京の描写がどれだけ正確か、吉祥寺の空気がどんなものかは想像するしかないが、丁寧な描写は作者の東京への愛を感じる。
「東京を取り戻す、そして東京を知っていく」という作品紹介の意味が分かるようになるまでが楽しみな作品です。