鍵、陶酔。

木田りも

鍵、陶酔。

小説。 鍵、陶酔。




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・0-2


止めてくれれば良かったのに。


男はそう言うたびに安心しているように見える。もう壊れてしまったから否定する僕の声も届いていないだろう。

しかしその男も、そしてもちろん僕も、君が好きだったのだ。こんな形はたぶんみんな望んでいないのだ。君がかわいそうに思えてきた。でもやるしかないんだ。


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・1-2


安全とは何かを問われた。僕は答えられなかった。家の中とか、他者に侵害されない場所と答えたいところだが、現代にそのような場所など存在しなくなってきているのが事実ではないだろうか。今日も、誰かが死んでいる。肉体として、また情報として。

存在がなかったことにされる。

空気のように扱われ、疎外される。弾かれる。孤独とは何だ。悪意のない孤立。

耳当たりの良い嘘。こんな世界たくさんだ。

止めれる人はいないのか。


幕。


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・2-1


暗い小説を読み終わった感覚。多幸感より、喪失感が上回る。果たして今僕はどこにいるのだろうか。自宅だろうか。あくまで不動産屋が決めた空間にお金を払って暮らしているだけであって誰もこの場所に居て良いとは言っていない。もし急に違う人がピンポンを押して家に押し入り、家を乗っ取られて住まれてもバレなければ。

家というものはそうした不安定さに囲まれ続けている。


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・2-2


こんにちは〜


異物が現れた。初めて見た時、運命だと思った。この異物が全てを狂わせた。そして、僕は流れに乗るように狂い始めた。というより、狂わないとやってられなかった。

僕は初めてマジョリティーになった。多くの人と同じような幸せ、ありきたりな喜びを欲しがるようになった。そして、それを得ることのできる自分にとても大きな満足感を感じた。昔、狂ったように君が好きになり、君の虜になっていった。それはとても自然に僕を蝕んでいった。今思えば変わったのはあの頃だと思う。


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・???


隙間風が入り、カーテンを閉める。寒くなってきた今日この頃。時は止まってくれない。

僕は、自分という存在を誇大し、またそれを否定するためのインターネットを作った。そこで良く、炎上するであろう内容を作り、またそれを普通の僕が否定し、叩くという行為をやり続けた。僕に賛同してくれる者は数多くいる。例え相手が消えても、正義というブランドを着ていれば安心する性質を利用した実に効率的な仲間集めだ。僕はこうして正当性を手に入れた。それはまるで昔を忘れられるようだったのだ。


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・2-3


君は、よく、それも急に現れては僕の部屋で過ごすようになった。学生時代はこんな関係じゃなかったのにも関わらず、僕に何の意味があって近づいてるのかよくわからないままだった。僕は物事を深く考えることができず、君に合鍵まで渡していた。君のことが好きで信頼したい僕が存在する。あの当時、僕は僕自身を否定出来なかった。それがこの自分を作り上げたのだろう。


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・2-4


あの頃は酔っていたんだと思う。良くも悪くも若い僕は自分というものを持たず呼応していた。君はもうほとんどこの家の住人のようになっていた。それは僕にとって一種の精神安定剤で君がいない日を寂しく思うほどになっていった。まるでゆっくりとあなたが僕に入ってくるような感覚。僕は、好きな時間にご飯を食べ、好きな時間に出かけ、好きな時間にSEXをした。それはまるでカップルのようだった。しかし、君はずっとここにいるが、居ないことになっていると度々僕に言っていた。さらに、あくまで最後は、ありがとうございました、と他人のように礼をして自分の寝床に入っていくのだ。僕たちは、他人なのだろうか。


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・3


君はとてもモテていた。絶世の美女というよりは、人柄や性格がおっとりしていて、おとなしめだけど、ノリが良かったり、付かず離れずを使いこなす器用な人だった。多くの男子が告白していたが、そのほとんどが失敗していた。成功したという例を聞いた時、その相手の男子が転校していったことを覚えている。君はその時は落ち込んだり、悲しんだりしていた。しかし、頑張って元気になろうとしている様子も目に映り、より一層人気になったのを覚えている。君は何においても完璧だったのだ。


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・4-1


君と付き合ってた尾崎くんはどうして転校したの?


君はまるで昔を見ているかのような目をした。


尾崎くんは死んだよ。自殺。


なんで?


なんでだと思う?

税金を払えなかったからだよ。


これは夢だ。


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・4-1


君と付き合ってた尾崎くんはどうして転校したの?


君はまるで昔を見ているかのような目をした。


尾崎くんはここにいるよ。


え?


君が尾崎くんじゃん。


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・4-2


特徴のないやつだった。だけど、嫌な印象は何もなかった。ありふれた友達だったんだけど、人は変わったりする。それは自分が変わらなくても周りが影響を与えたりする。

尾崎くんと僕はずっと友達だった。中学に上がって、僕たちは君と出会った。僕たち3人はとても仲の良い友達だった。妙に意気投合したり、プールや海や映画館など、いろんなところに行った。ある日、僕たちは君と一緒に帰った。尾崎くんがいなくなったあと僕は君に相談を受けた。それは僕にとって最も聞きたくなかった相談だったかもしれない。

それから月日が流れても僕たちは友達だった。だからこそ、尾崎くんになりたかった。僕は尾崎くんになろうとした。君と尾崎くんはいなくなった。旅先で事故にあったらしい。君だけは帰ってきた。君は何も覚えてないと言った。ただ尾崎くんという名前だけ。僕は尾崎くんになった。


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・0-1


もう何年間も耐えた。僕は孤独じゃないのにいつも孤独だった。気を遣ってくれる2人がとても嫌いだった。2人を嫌いになりたい。2人を忘れたい。尾崎くんはたまに僕に愚痴をこぼした。


あいつさ、お前といる時の方が楽しそうなんだよ。やっぱ俺が思うのはさ、俺らはずっと友達で、3人とも別々の家族を持った方がバランスが保たれるんじゃないかなって思うのよ。まあ、わかんないけどね。俺、お前と友達で良かったよ。


心の底から憎悪を抱いてしまった。悪意だよ。尾崎くん。


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・0-1


君はきっと分かっていたのだろう。分かっていたからいなくなったのだろう。君はここにいる尾崎くんを探しに出かけた。君を見つけた時、君は僕から逃げようとした。僕はあの時と同じ、君と尾崎くんがいなくなったのと同じように、僕の前から消えた、


初めに戻る。





(この物語はフィクションです。たぶん大体は)


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あとがき


読んで頂きありがとうございます。

少し、ミステリーホラーのような感じになりました。

章番号を振っていますが、特に気にせず順番に読んでくれると良いと思います。


多くは語りません。改めてここまで読んでいただき感謝します。1日でも幸多きことを。

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鍵、陶酔。 木田りも @kidarimo777

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