2体の行く末
エピローグ
「終わったな。俺達の役目」
「そうですわね」
「ったく、琢磨のヤツ人の気もしらないで…………幸せそうな顔しやがって」
「そうですわね」
「頼むよ父上!行かせてくれ」
天使界で監禁されていたアク。ある目的の為に必死にゼウスに直談判をしていた。
「だから貴様に父親呼ばわりされる覚えは無いといっておろうが」
「そんなこと今はいいんだよ!頼むよ行かせてくれ」
「儂の愛しいテンちゃんの身体でそのような下品な言葉遣いをするな!」
「俺………いや俺達は今、あいつの………琢磨の元に行かないと絶対後悔する。それはテンも同じ考えのはずだ!」
「貴様。我が愛しのテンちゃんに、散々禁忌を犯させて、また禁忌を破らせる気か!?ふざけるんじゃない!!お前達は本来。追放どころか消滅処分でもお釣りが出るだけの禁忌を侵しておるんじゃ、まだその存在があるだけ幸せなことだと知れ!!馬鹿者!!!」
「クソっ」
「まあまあ天使長。そう感情的にならないで」
「ソナタは口を挟むで無い!」
「なんですって?」
「…………あっ……………はい。ごめんなさい」
「さて、テン………いやそこの忌々しい悪魔。天使長の言うことはご最もです。貴方は本来こうして自分の意思を述べることすら煩わしい身だということは存じていますか?」
「それはわかってる」
「ほう?では我々を納得させる理由を述べてみてください」
「ヘラ!何を勝手なことを!!」
「はい?」
「あっ……………はい……………すみません」
「……………」
「さぁ、悪魔さんいかがでしょうか?」
ヘラの笑顔に隠された狂気の瞳にアクは戦慄しつつ想いの丈を述べる。
「俺は…………いや俺達はあいつの………琢磨の元を離れたことで気がついたんだ。極端な思想の危うさを」
「……………」
「琢磨はただ俺達が導くだけの存在じゃない。俺達の一部であり、俺とテンと琢磨…………3人で1人の存在。それが『御使琢磨』なんだ。確かに俺達は勝手にあいつの元を離れた。だけど琢磨はその後自らの力で立ち直った。もう必要無いのかもしれない。けど、琢磨がまた自分の本心を曝け出すことを躊躇している時にあいつの背中を押して挙げられるのは俺とテン………いや俺達しかいないんだ!!」
「…………」
「だから、お願いします。一度だけ…………一度だけでいいのでもう一度人間界に…………琢磨の元に行かせてください」
「…………全く感情的で話になりませんね」
「……………」
「天使長!ヘラ様!!」
配下の天使が慌てて話に割って入る
「貴様!許可するまで誰も入るなと命じただろう!!」
「それが…………」
配下の天使が報告内容をゼウスの耳に入れる。
「なんだと!?それは確かか」
「はい…………」
「ヘラいいか?」
ゼウスは今し方聞いた報告をヘラに伝える。
「……………」
「あっあの…………」
「ついてこい馬鹿者」
強引に2体に連れられるアク。連れてかれた先には見覚えのある3体がいた。
「仕事以外でそなたの顔など見たくはないのだがな」
「その言葉そっくりそのままお返しだぜ」
「久しぶり〜リリスさん〜」
「ヘラ〜元気してたか〜」
「テン…………」
「アクさん…………」
「おい!儂らの愛しい娘は丁重に扱っているんだろうな?」
「そっちこそ俺達の倅を洗脳してないよな?」
「天使長?」
「おい!テメェー」
「はい。……………すみません」「はい。……………すみません」
「………………」「………………」
「さて、本題に戻る訳じゃが、テンよ」
「はい!お父様。」
「………………」
「………………」
「偽りでは無さそうじゃな」
「おい!アク」
「親父!」
「………………」
「………………」
「自分の意思なんだな?」
「そうだ。親父、お袋」
「………………」
「………………」
「お互いの情報に偽りはなさそうじゃな」
「…………確かにな」
「テン、それにアクよ」
ゼウスの威厳に満ちた姿に圧倒される2体。
「貴様らに最後の試練だ。彼を…………御使琢磨の行く末を見届けろ」
「親父さん…………」
「お父様」
「貴様等に最後のチャンスをやる。自分達の見守ってきた憑依者の最後の決断を見届けろ」
「お父様………ありがとう御座います。」
「早く行け、馬鹿者共」
「ちゃんと見送ることが出来たな」
「そうですわね…………」
「思えばお前との付き合いも長いものだな」
「琢磨さんが6歳の頃ですから22年くらいですかね。」
「色々揉めたよな」
「元々私達は相容れないはずの存在ですもの、揉めて当然ですわ」
「それが、あの事故でお互いに入れ替わりが発生して」
「両者の価値観を知って」
「憑依者が俺達が憑くことで苦悩する事実を知って」
「三者三様の思考に共感を持てるようになり」
「そしてゴールは俺達の願った最良の未来か」
「そうですわ。これ以上無い最高のゴールです」
「琢磨に感謝だな」
「本当です。」
「色々謝らなきゃな」
「全くです」
「テン………ごめんな」
「!?なんのことです?」
「俺が強引に禁忌を犯す提案をしなければ、お前はこんなことには…………」
「アクさん…………なにを言っていますの?」
「えっ?」
「確かに、禁忌の実行を提案をしたのはアクさんです。ですが私も同意の上で実行しました。だから貴方に謝られることは何一つありません」
「テン…………」
「それにあのままでは琢磨さんは確実に暗闇の世界を漂い続けることになったでしょう、結果的にはあの我々の決断は正しかったというとですよ」
「そうか、ありがとうな」
「琢磨さんに感謝しないとですね」
「?」
「大変不謹慎ではありますがあの日、琢磨さんが事故にあったことで私達の精神に入れ替わり、危機感を共有し琢磨さんを導く形を協力して模索することが出来ました。」
「そうか……………確かにな」
「……………。」
「……………。」
「テン。ありがとうな」
「こちらこそアクさん。ありがとうございました。」
「………………結局。元に戻れなかったな」
「……………そうですわね。でも私達はこれで良かったのかもしれませんわ」
「テン?」
「だって【天使のアク】さんと【悪魔のテン】。そして琢磨さんの三人合わせて『御使琢磨』なんですから」
「テン……………」
「アクさん……………」
「何故互いに感謝しあってるんだお前達」
突然現れた両者の両親。
「なっ、なんだよ!?親父にお袋!!」
「………………」
「何って、お前らを連れ戻しに来たに決まってんだろ?倅よ」
「憑依者の中であんた達に天罰下したら、幸せの絶頂にいる憑依者を奈落の底に突き落とすようなもんだろ?だからそれぞれの世界に戻って。天罰を下すんだよ。」
「そうか。確かにそれもそうだな」
「……………さてと、では始めるぞ」
「えっ?」
「お父様?」
ゴロン…………ゴロゴロゴロン…………
突然なり響く雷鳴。2体が上を向くと雷雲の中に稲妻が迸っているのが見える。
「ちょっと待ってくれ、話しが違わないか?」
「お父様!ここでは天罰を下さないのでは無いのですか?お父様!!」
「これより両者に天罰を執行する!!」
「……………テンちゃん」
「さらばだ倅よ」
「達者でな、アク」
「ちょっと待ってくれ!親父!!お袋!!!」
「お父様!お母様!!せめて!!!せめて琢磨さんだけは……………」
「フゥン!!!」
ピシャーン!!!!!
「グワァーーーーーー」
「キャアーーーーー」
強烈な落雷が2体な直撃する。
「ハァぁぁぁぁ」
その後で直ぐに斬り刻まれるとうな鋭い風が2体の身体を蝕む。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「………………私。生きてる」
「………………俺も。生きてる」
(なんだか、胸部が急に重たいですわ)
(なんか局部がむず痒いぜ)
「テーンーちゃんーーーーー」
「アクーーーーー」
それぞれの母親が思いっきり抱きしめる。
「おっお母様!苦しいですわ」
「お袋!痛いし苦しい…··…しっ死ぬ〜」
「おかえりテンちゃん。」
「おかえりアク。」
「えっ」「えっ」
「私の身体が目の前に」
「俺の身体が目の前に」
「……………………」
「……………………」
「えええ〜〜〜〜〜」「えええ〜〜〜〜〜」
「なんじゃお前達。自分達の身体に戻ったのにその残念そうな反応は」
「えっあっいや、えっえっ、どういうことですの!?」
「俺が知る訳ねーだろ!?俺も知りたいぐらいだ」
「なんじゃ。お互いあのままが良かったのか……………ならもう一度……………」
「なっなにを馬鹿な事を仰っていますの?お父様。元の身体に戻れた事。嬉しいに決まっているのではありませんか!?」
「そっそうだぜ、願ってもない元の身体だ。嬉しいに決まってんだろ!?爺さんよう」
「ただ、この現象に混乱しているのですわ!お父様」
「……………儂らは世界を滅ぼすだけの力を秘めておるんじゃぞ?人格の入れ替わりくらい本気になれば簡単じゃい」
「そっそうだったのか……………」
「お前達が勝手に戻って来た際に、お前達の活動履歴を精査した結果入れ替わりの原因を知ったからな。」
「対象者に強い衝撃を与え、生死の境を漂わせる事……………それが入れ替わりの真相ですわ」
「生死の境を漂わせるって……………俺達死んだ可能性もあるのか?」
「まぁそうだな、けどあたしらは人間と比べれば何十倍も強靭な身体だ。あれくらいじゃ、まず死なないよ」
「………………」
「………………」
「あれで逝っちまう天使や悪魔は相当運が悪いか日頃の行いが悪いかだよ」
(身体が痺れて、それに身体中が痛いのですが……………)
(禁忌を侵しまくって生きてる俺達って、相当運が良かったとか、日頃の行いが良かったとかそういうことか?)
「まぁそれでも対象者が死んでしまうリスクがある以上。簡単には使えない手法っちゃあ手法だ」
「貴様らに与えなければならない罰と御使琢磨という1人の人間を導いた功績……………それらの点を総合的に判断し。今回の罰とした。」
「お父様………………」
「親父さん……………」
「……………あ〜〜〜〜〜。もう我慢ならん。ヘラよ!もう良いか?良いよな??」
「はい天使長。お疲れ様でした。」
威厳に満ち溢れた姿が途端に鳴りを潜める。
「テーンーちゃん〜〜〜〜〜」
思いっきりテンを抱きしめるゼウス。
「ちょっと!お父様!!皆が見ています!!!恥ずかしいですから、お止めください。お母様お助けを」
「テンちゃん。我慢しなさい。天使長は約20年ずっと貴女をこうして抱きしめたかったのに、御勤めと貴女達の入れ替わりが原因で出来なかったのです。今日だけは甘えさせてやりなさい」
「そっそんな〜お母様〜〜〜」
(……………ご愁傷さまだな、テン)
「おいアク!なにボサッとしてる!!」
「へっ?グホーーーーー」
ミゾオチに見事に決まった拳がアクを彼方まで運ぶ。
「痛てーーーーー!親父なにするんだよ!?」
「なにって鍛錬だよ」
「鍛錬?」
「勿論欠かさずやってただろ?」
「はい?」
「さぁ20年のお前の成長を俺に見せてくれ倅!!!!!」
「いや、待て親父!俺は20年間天使やってたんだ。悪魔の力なんて全然成長してない…………ウォーーーい!!話を聞けーーーーー」
「アハアハハハーーーーー」
「お袋!助けてくれ〜〜〜〜〜〜」
「アクよ、悪魔長はお前の成長を見たくてウズウズしてたんだ。一人前になった姿お披露目してやんな!!!!!」
「待ってくれ〜だから俺は悪魔の力はなんも成長してねえよ〜〜〜〜〜!!!!!グワァーーーーーーしっ死ぬ〜〜〜〜〜」
「ちょっとお父様いい加減に……………………………」
テンはゼウスの顔を力強く押し、脱出を試みる。
「誰か助けてくれ〜〜〜〜〜」
アクは無数の斬撃から逃げ回る。
「…………………さてとそろそろ私も愛しい娘へ愛情表現したいですわ〜〜〜」
2体の愛情表現を羨ましく見つめていた母親が動き出す。
「おっお母様!それはさっきお済みになったのでは?」
「あら20年振りの再会があれで終わる訳ないでしょ?テンちゃん?」
「えっ・・・・・ヘラ?アヒャ~~~~~」
「お母様ストップストップ〜〜………………………」
娘を抱きしめる夫を押し飛ばしヘラは、思いっきり愛情表現をするのであった。
一方これまで我慢していた感情が疼く母親がもおう一体・・・・・
「さてと、そろそろ私も混ざろうかね?」
「お袋待ってくれ、休ませて……………」
「馬鹿いってんじゃないよアク!寂しかったのはアタシも同じだ!!そら行くぞーーー」
「ギャーーーーお袋待ってくれ〜せめて親父のシゴキの後で…………………………」
「なんだこの修羅場は…………」
気がつくと月子に憑いていた兄(姉)がこの場にいた。
「御兄様!テンをお助けください。」
「テンよ父上と母上の愛情を一心に受けるのはそなたの役目ぞ。」
「そんな御兄様!御兄様〜〜〜………………」
「あらアク復活おめでとう。」
「姉貴!助けてくれ!!」
「………父さんも母さんも嬉しそうね?心配かけた分しっかり返しなさいよアク!」
「姉貴〜〜〜」
「オラオラオラアク余所見してんじゃないよ!」
「ギャアアアアアア!!ギブギブアップ〜〜〜…………仕方がねーこうなれば!」
「ちょっとアクさんなんで、私の後ろに…………イヤァーーー」
攻撃を躱す為にテンの背後に周るアク。そしてアクの予想通りの反応が返って来た。
「おい!家の娘になにしようとしとる糞悪魔?」
「あぁ?俺達のスキンシップにその小娘が乱入してきたんだよ文句あっか?」
「殺すぞ糞が」
「やれるもんならやってみろ偽善者………………………·」
「おい家の娘(倅)に何手を出そうとしてんだ?」
「ごっごめんなさい(ごっごめんなさい)」
「逃げるぞテン!」
「アクさん!どこに?」
「決まってんだろ!?」
(琢磨さん!)
(琢磨!!)
(助けてください〜)(助けてくれ〜)
「良かったな。お前達。」
「どうした、琢磨?」
「うん?あぁ独り言だ」
「そっか……………良かったな」
「あぁそうだな」
天使くんと悪魔ちゃん ザイン @zain555
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