第48話 不死鳥とお縄グルグル上半身裸変態男

「なあ。ドリーさんや。ああいうのは何と呼ぶべきかね?」

「踊る阿呆に見る阿呆……踊れ、シゲン」

「いやいやいやいや。踊らんだろうて」

「それでどうするの?」


 いやいや。

 どうすると問われても助けざるを得んだろうて。

 エーリクまで一緒に沈んでは色々と困るのだよ。

 ボリーが悲しむだけでは済まんだろうて。

 あやつは一角の人物になる。

 ワシの目は確かである! 多分!


 それにあのハクヤクという男、実に気になるではないか。

 恐らくはワシと同じ時代を生きていたのではあるまいか。

 名といい、見た目といい、そうとしか思えん。


「本当に助ける?」

「まあ、仕方あるまいて」

「シゲンも意外と甘い。ひっーひひひひっ」


 凍結湖の氷が割れた。

 結果として、氷上で激しい戦いを繰り広げていたエーリクとハクヤクは、ボチャンである。

 おまけにあの二人は何を考えているのか、諸肌を脱いでおった。

 上半身裸の青年二人が壮絶な殴り合いを繰り広げる様は、何とも言えない絵面ではあった。


 「俺のこの熱い思いをくらえ!」だか、「我が熱き魂をくらえ!」だか。

 阿呆であるよ?

 濡らした布を振り回すとあっという間に釘を打てるのである。

 そんな中で諸肌を脱ぐだけでも阿呆なのに水に落ちたのだ。


 全く、何を考えておるんだか。

 「だずげでぐでー」「ざぶいー」とバチャバチャと足掻いている二人を見るとこのまま、湖の底に沈めておいた方が世界の為にいい気がせんでもない。

 だが、そうもいかんからのう。

 ワシ、こう見えて二手三手先を読む軍師だからなあ。




 さらなる被害を出さぬように細心の注意を払い、阿呆二人を回収した。

 エーリクはボリーに任せておけば、問題ないとしてだ。


 問題は目の前のお縄グルグル上半身裸変態男であるな。


「そうは思わんかね、ドリーくん」

「お縄グルグル上半身裸変態男はいい。ひっーひひひひっ」

「そこではないのだがね」


 ドリーの頭の中身はどうかしているので置いておくとしようではないか。


「そうだろう? お縄グルグル上半身裸変態男くん」

「俺はそういう名ではない。我が名はハクヤクである」


 猿轡さるぐつわをかまされているのに器用に喋ることだと変なところに関心してしまったわい。

 いかんいかん。


「お主。それは字であろう? 姓と名を述べてみたまえよ」


 目配せをして、お縄グルグル上半身裸変態男の猿轡さるぐつわを外させた。

 これで喋りやすいだろうよ。


「ワシの姓は龐。名は統。字は士元である。荊州の生まれにして(以下長いので略)」


 ワシの名乗りを聞いた上半身裸変態男はハラハラと涙を流しながら、何か感動している様子である。

 これはどういうことかと思っておると上半身裸変態男は語り出した。


「俺は姓は姜。名は維。字は伯約と申しまする。涼州は天水の生まれにして(以下長いので略)」


 「ひっーひひひひっ」と笑いながら、宙と会話しているドリーはともかくとしてワシはどうやら、この地で遥か故郷に関係のある人物と出会ったようである。

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【第一部完結】龐統だが死んだら、魔法使いになっていた。どうすればいいんだ? 黒幸 @noirneige

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