花器
尾八原ジュージ
花器
私は花が好きなので、毎日のように花屋に行きます。花屋は緑のにおいでいっぱいで、まるで夢のようにたくさんの花が咲いています。
私は店中を見回って、特に元気のいい、美しい花を買っていきます。古くて広くて煤けたような家のそこかしこに飾ります。玄関に山茶花を活けます。居間にシクラメンの鉢を置きます。
見た目には賑やかになります。でも、花は喋らないのでとても静か。私にはそれが好ましい。
一階をすませてしまうと、次は二階で寝ているお母さんに花をあげます。まずは口の中で枯れている竜胆を、ぎゅうぎゅう中に押し込みます。お母さんの喉の奥でカサカサと音がします。お腹は枯れた花でぱんぱんに膨らんでいます。
それから白い花弁をみっしりつけた瑞々しい菊を、新しくお母さんの口に飾ってやります。黒ずんでカサカサになった肌に白いはなびらがよく映える。ひと仕事終えた気がしてほっとします。
お母さんは静かです。こうして花を咥えて寝ている方が、むかしの口うるさいお母さんよりずっといい。
花を飾り終えると、私は家中を見て回ります。私の足音がひたひたと微かに鳴っては消える。ほかに動くもの、喋るものは何もない。
花はきれいで静かです。私にはそれがいいのです。
花器 尾八原ジュージ @zi-yon
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