美里の恋
結騎 了
#365日ショートショート 311
「それって、元カレがストーカーになってるってこと?」
カクテルグラスを片手に、私は口をあんぐりと開いた。大学の同期の美里とは久しぶりの食事。そこで、神妙な面持ちの彼女から打ち明けられたのだった。
「そういうことに、なるのかな」。爪先のネイルを指で撫でながら、美里は吐き捨てるように語った。「もうとっくに終わったんだけどね、あの人とは。きっぱり別れも告げたはずなのに。それなのに……」
「それにしたって、職場に待ち伏せはちょっとキツいよ。メールも毎日だって言うじゃない」
美里は昔から恋の多い女だった。そして、好きになった男には一直線。その思い切りの良さが誰かと衝突を生むことも少なくなかった。
「ねぇ、念の為に聞くけど。その元カレとはなんで別れたの」
美里は昨日の夕飯でも思い出すような表情であっけらかんと語る。「えっとね、元カレの友達だっていう今カレを含めて皆で飲んだの。そのあと、私から別れよう、って」
「えっ」
「だから、私から別れようって言ったの。別に嫌いになったわけじゃないよ。今カレの方を好きになっちゃったから」
軽くなったカクテルグラスの縁をなぞりながら、私はため息をこぼした。
「美里。悪いけどさ、それは元カレに同情するわ」
「ええっ、どうして。被ってないよ、ちゃんと別れてから付き合ったから」。美里は真剣な顔つきだった。「もう一週間も前の話だよ」
美里の恋 結騎 了 @slinky_dog_s11
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