夜明けの前に
タクシーを呼び止めるライラの腕も、細く枯れている。アルトゥールと並んだら、今は祖母と孫に見えるだろう。でも、彼と彼女の見た目の年齢が釣り合っていた時などないのだから構わない。彼女の胸を占めているのは、再会への期待と喜びでしかなかった。
屋敷の住所を告げると、ドライバーは怪訝そうな顔をした。
「街はずれですね。何があるんですか?」
「開拓時代のお屋敷よ。友人が買い取って住んでいるの」
「素敵ですね」
「ええ。とても綺麗な庭があるのよ」
社交辞令に相槌を返しながら、ライラはあの庭を思い浮かべていた。かつて、何度もふたりでお茶会をした庭。彼は、菓子の作り方をまだ覚えてくれているだろうか。今の時期は、どんな花が咲いていただろう。冷凍睡眠から目覚める合間に手紙のやり取りはしていたけれど、最新のやり取りからそれでも数年が経っている。次に会う時は直接と、その時に宇宙船の到着日時も教えていた。アルトゥールは、今頃は庭にティーカップでも並べているだろうか。会わない間にあったこと思ったこと感じたこと──夜明けまでにどれだけ語れるだろう。
ライラは心臓を服の上からそっと抑えた。長い旅と冷凍睡眠を繰り返した彼女の身体はかなりがたついている。苦しいほどの動悸は、けれど身体の限界を告げるだけではない。彼女の心臓は、喜びに高鳴っているのだ。
もうすぐだ。もうすぐで、彼に会える。約束をやっと果たすことができる。ラートリーの夜明けを、ふたりで見るのだ。
屋敷まではほんの短いドライブだ。少なくとも、これまでの
次に目を開ければ、美しく懐かしい笑顔が迎えてくれる。
明けない夜のヴァンパイア 悠井すみれ @Veilchen
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